めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな
──紫式部(『新古今和歌集』)
心はしたためることばを探している
これがほんとう この意味 この心
そうして差し出せるものを探している
だれかに そしてみずからに
そうするように促されるまま
ことばに手をかけ つづり ことばを運ぶ
かたちなく 消えてゆく夢を追うように
どこにもたどりつくことのない
なにものも結ぶことができないままに
はじまりとおわりを区切られた
ひとりの時間の向こう側へ心は駆けてゆく
消えていく時間 かさなり 溶けあう時間
かつて いま これから
そして最後に訪れるものへのおそれ
はてしない時間の海に浮かぶように
たしかに生きられていたなごり
いまを照らすように 海に消えたもの
これから消えてゆくもの
なつかしさ せつなさ、もの苦おしさ、あこがれ、おそろしさ
どれもこれもほんとうは触れることができない
手に負えない けっして名づけようのないものに
しかたなく心はみずからに告げる
なんてかなしいのだろう
そうしてはじめて気づく
かなわない願いに染まっている
かぎりなくはかなく色づいたこの世の姿に