イワン・アサノヴィッチの一日  畑と映画の好きな卒サラ男。

政官業癒着体質の某公共事業職場を定年退職。鞍馬天狗・鉄腕アトムの人類愛に未だに影響を受けっ放し。孫には目がない。(笑い)

芝居「天切り松」・振り袖お紺の不思議

2013-03-07 11:10:13 | 演劇

  原作は浅田次郎の「天切り松 闇がたり」で、今回はすまけいが演じた。以前に左とんぺいがミュージカルで演じたがイワン・アサノヴィッチは観そこなった。
 

物語は大正時代の帝都東京を舞台にした義賊・天切り松が語る、山県有朋の最晩年に起きた、義賊一味・振り袖おこんとの縁話しとでも言うのだろうか。

 

観劇の後は観賞サークル仲間と一杯やりながら蘊蓄(うんちく)を重ねるのが定番だ。 この日は古くからの会員カズさんと二人だけの一杯会だが、それだけにアレコレと濃い話しとなる。

開口一番カズさんは『やっぱり人間の最後は地位やカネじゃないってことだね。』とタメ息まじりで改めて納得した口調で切り出した。イワン・アサノヴィッチも全く同感だと相槌を打った。
 

山県有朋は長州藩の下級武士でありながら、“槍の小輔“と異名をとる武勲を立てつつ、明治維新の時代の流れの中で大出世。内閣総理大臣・元帥陸軍大将・枢密院議長・貴族院議員と政治・軍・議会のトップを総なめにした人物だ。

文字通り富と地位は十分に手に入れた筈の人間でありながら、有朋の晩年は或る迷いが頭をよぎって離れない。

東京の花火が涼気を漂わす夏の夜、形の綺麗な白い顎が夜陰に浮かぶ女がひとり、モサ(スリ)こと振り袖おこんだ。有朋は恩寵の金時計をおこんのゲンマエ(正面から懐の金品を堂々と抜き取る)で盗まれた挙げ句に河に投げ込まれてしまう。

おこんを捉えて詰問をして行く中で、義賊・おこんの気っ風と有朋が忘れ去った価値観の突きつけに圧倒される。

『おまえに惚れた』と言って、渡したくはなかった家宝の槍をおこんに持たせる。

厳かな有朋の葬儀の列の前に突然おこんが現れる。有朋から頂いた家宝の槍を納棺してくれと懇願する。棺に納められた槍と有朋を見送るおこんは激しく感涙する。
 

晩年の有朋が最後まで家宝と称し、手放さなかった”槍の小輔“を渋々ながらおこんに渡すのだが、おこんにとっては何の価値も無い槍の一本が謎の行動。

栄達を極めた有朋は地位や富が必ずしも人間を幸福にしてはくれないことを識り、槍とともに夢と希望に燃えながら精進・鍛錬した頃の心の充実が至福の宝と認識していた。

有朋にとって一本の槍は若かりし頃の心の充実を果たした情操であると同時に、世の栄達を欲しいままにしたツールでもあったのである。

おこんは有朋から槍を強引に貰い受けると同時に”栄達“に汚れた有朋の身体を一旦は丸裸にする。しかし、出棺の折には”情操“としての槍を有朋に還す。

おこんは、有朋の分身だったのだろうか。


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