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自治体の職員が懲戒処分に不服な場合の方法

2021年04月05日 | 地方自治体と法律
地方公務員が懲戒処分を受けたけれども、納得ができないとき、どうしたらよいでしょうか。

(懲戒処分の指針)
まずは、自治体で懲戒処分の指針とか懲戒処分の基準というものが定められていますので、それを見てください。
それには自治体がどのような事項について、どのような処分を標準としているのかが書かれています。
 例えば、千葉市の懲戒処分の指針の「飲酒運転での交通事故等」という項目では次のようになっています。
ア 飲酒運転で事故を起こした職員は、免職とする。
イ 飲酒運転をした職員は、免職又は停職とする。
ウ(略)
※ 飲酒運転とは、酒酔い運転及び酒気帯び運転をいう。

(懲戒処分の指針をどう読むか)
 この記載をざっと読んでしまうと、酒を飲んで運転したら、懲戒処分になってしまうんだと思ってしまうのが普通ではないかと思います。
 もちろんそのように思って懲戒処分にならないように身を戒めてほしいのですが、やってしまったことが懲戒処分となった、懲戒処分となりそうだという場合は、懲戒処分の指針は法律的に読まないといけません。
 まず、「飲酒運転」というのは単に酒を飲んで運転したという意味ではありません。懲戒処分の指針には、「 飲酒運転とは、酒酔い運転及び酒気帯び運転をいう。」と定義されています。「酒酔い運転」も「酒気帯び運転」も法律上の用語です。両方とも道路交通法に規定されています。
 そうすると、自分が懲戒処分になぜ該当したのかは、道交法の知識も踏まえないと分からないということになります。
 このように、まず懲戒処分の指針をきっちりと読まなければなりません。

(酒気帯び運転を例として)
 酒気帯び運転を例として検討してみましょう。
 酒気帯び運転とは、呼気(吐き出す息のこと)1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上検出された状態をいいます。
 警察が検挙する場合は、呼気検査というものをして、上記以上のアルコール濃度があれば酒気帯び運転として事件として処理することとなります。
 この時点で自治体も事実を了知すれば、職員の懲戒処分を検討することになると思われます。
 しかし、警察が得た酒気帯び運転の証拠は自治体には提供されません。自治体が得られる証拠は、検挙段階では職員からの報告に基本的には限られます。
 ではいつ警察が得た証拠を入手できるかというと、刑事事件が確定したときです(有罪の場合のみ)。これは、警察が検察に事件を送致し、検察が事件を起訴して、裁判所の判断が確定したときです。
 酒気帯び運転のみの場合は通常逮捕はされませんので(在宅捜査)、警察が検察に事件を送致するまで半年、検察の捜査が数ヶ月かかる場合もまれではありません。
 自治体としては、職員の供述のみで懲戒処分を行うのか、刑事事件が確定し確実な証拠を得てから懲戒処分を行うのかの選択になりますが、前者を選択し、早い処分をすることもあります。
 この場合、刑事事件の処分が決まっていない段階での懲戒処分となりますので、後で刑事事件としては不起訴だったということもあり得るわけです。
 実際にこういうケースは存在していまして、酒気帯び運転で懲戒免職処分が行われたけれども、刑事事件は不起訴。そのため、酒気帯び運転の故意を自治体側は立証できず、過失の酒気帯び運転であるとして、懲戒免職処分が取り消されています(東京高判平25・5・29判時2205・125)。
 このように懲戒免職処分等の重い処分がなされた場合は取消しとなる可能性もありますので、専門家に検討を依頼してみることも一案です。

(懲戒免職処分だけでなく退職手当支給制限処分も)
 懲戒免職処分となった場合、退職手当支給制限処分もおってなされることが多いように思われます。少なくとも、裁判例を見ている限り、退職手当を全額支給しないという処分がなされています。
 懲戒免職処分が取り消されれば、退職手当支給制限処分も見直しは必至です。退職手当の支給額が大きい場合は法的に争うことは大きなデメリットを回避できます。


 


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