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地方公務員の昇格の格差と差別的取扱い

2021年04月08日 | 地方自治体と法律
(昇任・昇格・昇給とは)
 「昇進に差がある」等と俗にいわれたりしますが、地方公務員の場合、裁判例では「昇任・昇格」という言葉が出てきます。
 まず、これらの言葉の違いを見ていきましょう。
 昇任:職員をその職員が現に任命されている職より上位の職制上の段階に属する職員の職に任命すること(地公法15条の2第1項2号)。例;係員が係長になる、課長補佐が課長になる。
 昇格:職員の職務の級を同一の給料表の上位の職務の級に変更すること。
 昇任は任用上の概念ですが、昇格・昇給は給与上の概念です。地方公務員について給与は条例で定められるので(地公法24条5項)、昇格の基準等は条例又は規則で規定されます。
 昇任・昇格と似た言葉に昇給があります。
 昇給:同一の級の中で上位の号棒に変更すること。昇格が職務の級を上位の職務の級に変更することであるのに、昇給は同一の級の中の変更であることが違いです。

(組合員差別)
 地公法56条は、「職員は、職員団体の構成員であること、職員団体を結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと又は職員団体のために正当な行為をしたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。」と不利益取扱いの禁止を規定しています、しかし、労働組合に所属し、活動を行ってきたことを理由として、昇任・昇格に差別的取扱いが行われたとして裁判になったケースはあります。
 在職中に職員組合に所属し、役員として組合活動を積極的に行っていることなどを理由に、昇任等において不当な差別的取扱いを受けたとして、市に対して損害賠償を求め、賠償が認められたものとして静岡地裁浜松支部平成14年2月25日判決(裁判所ウェブサイト)。
 この事例では、原告の昇任が同期採用同学歴職員と比較して著しく遅れていること自体は争いがなく、格差の理由が原告の能力や勤務実績に起因するのか、それとも原告が積極的に組合活動を行っていたことによる差別行為によるものなのかが争点となりました。
 裁判所は、原告の勤務評定書の記載内容から、原告は職務の一般的能力に関し、他の同期採用同学歴職員の平均的な能力を有していたとし、昇任等で格差が生じたのは、原告が組合活動を積極的に行っていたことによるものと認定しました。
 地公法は成績主義・能力主義を採用していますので、当該職員が、他の職員と比べて、能力・適性・勤務実績等に差があれば、昇任等に格差があったとしても違法にはならないことになります。前記判決では、原告が平均的な能力を有しているという認定がなされ、格差は違法であるとされましたが、原告の勤務成績が劣ると認定された場合は、格差は適法であるとの結論となります。
 そのような事案として、全税関横浜支部事件最高裁判決があります(最高裁平成13年10月25日判決・判時1770・153)。この事案は、原告組合員と非原告組合員との処遇を全体的、集団的に見て、昇任等に格差があること、税関当局は原告組合員に対し、全体的、一般的に差別意思を有していたとの認定をしています。しかし、原告の勤務成績は非原告組合員に劣るという認定がさなされたため、原告への格差は適法であるとの結論となっています。

(外国人職員の取扱い)
  自治体は、職員に採用した在留外国人について、国籍を理由として、給与、勤務時間その他の勤務条件につき差別的取扱いをしてはなりません(労基3条、112条、地公法58条3項)。
 しかし、管理職への昇任を前提としない条件の下でのみ就任を認めるという扱いについては、適法とするのが最高裁判例です(最高裁平成17年1月26日判決民集59・1・128)。
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