読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

愛のひだりがわ 筒井康隆 新潮文庫

2006-08-15 18:13:02 | 読んだ
永遠の名作『時をかける少女』をついに超えた最高傑作!

と文庫の帯にある。
裏表紙には

(前略)近未来の日本を舞台に、勇気と希望を失わずに生きる少女の成長を描く傑作ジュヴナイル

ともある。つまり少年少女向けの物語なのだそうだ。

主人公は<幼いとき犬にかまれ、左腕が不自由な小学6年生の少女「月岡愛」>である。
彼女は母を亡くし父の友人に引き取られるが、家でも学校でも理不尽ないじめを受け、ある日、家を出て行方不明の父を探すたびに出る。

その旅の途中で多くの人(いい人も悪い人も)に出会い成長していく。
第1章 デン
第2章 ご隠居さん
第3章 サトル
第4章 志津恵さん
第5章 ダン
第6章 歌子さん
第7章 父
と、出会った人々が各章の題名となっている。

少年少女向きとあるわりには、あまりにも死ぬ人が多い。
少年少女向きで、人が死んで残酷なシーンが多くあるというのが特徴といえば特徴。近未来は「死」ということを確実に意識する世界なのか。

現代は「死」ということに非常に敏感である。しかし、敏感な割には「殺人」が多い。
昔は「死」というのはありふれたもの=ごく日常的に、あるいはすぐに死んでしまう=ことが多かった。しかし、命を大切にしていたと思う。

人はすぐに死んでしまうものだから生きることを大切にしよう。
という気持ちが深かったのかもしれない。
しかし、今は、人はなかなか死なない、だから多少のことをしてもいいんだ=命を軽んじている=ともいえる。

そういう風潮にこの物語は警鐘を鳴らしている、ともいえるが、そう真剣に考えなくてもよい。

<愛>は左腕が不自由なため、だれかが左側を守っている。
そして、彼女には不思議な能力があって、それも彼女を守ってくれる。
しかし、本当に彼女を守っているのは彼女が発する「愛」なんだと思う。

愛が窮地に陥ったときは必ず誰かが現れて助けてくれるという、まあ当たり前といえばあたりまえ、都合がよすぎるといえばそうだが、そのあたりを問題にする物語ではない。
あるいは、このへんは社会のあの部分を風刺しているのではないか、という裏読みをする物語でもない。

ただひたすらに、主人公の「愛」が幸福になればいいなあ、と思いながら先に進むのがよいと思うのである。

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