読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

いちばん長い日に -芭子&綾香シリーズ(完結編)- 乃南アサ 新潮文庫

2015-03-11 22:15:57 | 読んだ
「巡り合わせ」ということはあるものなんだなあ、と、今夜強く思ったのである。

この物語は『いつか陽のあたる場所で』から『すれ違う背中を』と続いてきたシリーズ(いわゆる『芭子&綾香シリーズ』)の完結編である。

「いつか陽のあたる場所で」の連作を小説新潮で読んで以来、この物語のファンになったのだが、その後続編は小説新潮に掲載されず『何だろうなあ』と思っていたら、「yom yom」に掲載されていたのであった。
したがって、今月の新潮文庫ででたこの「いちばん長い日に」を早速買って読んでいたのであった。

9日の月曜日に念願の「一人呑み」を実行し、そのお供にこの本読んだのであった。そして、昨日も読み、本日読了したのである。

物語の主人公・小森谷芭子は裕福な家庭に育ったのだが、大学生時代にホストに恋して入れ揚げ、家のお金を持ちだしカードローンで借金をした挙句、昏睡強盗をして懲役7年の刑を受け服役、もう一人の主人公・江口綾香は、夫の暴力に悩まされ一人息子を守るため殺してしまい、情状酌量により5年の刑を受けて服役。
二人は刑務所で知り合い、一回りも年の差があるにもかかわらず妙に気が合い、出所後も付き合っている、というか、支えあって生きている。

二人は前科を隠すために、世間の片隅でひっそりと暮らしているが、そういうなかでも「事件」は起きる。その事件は二人が前科があることによって真っすぐな解決にはならないことから「物語」になる。

芭子は、前科が世間にばれることを恐れびくびくしながら、あまり人と交わらない職についていたが、ペットショップで働くうちに、ペットの洋服づくりを始めたところ評判となり、今や、取り崩してきた預金が増えるてくるようになり、それにつれ、少しづつ自信が出てきたようだ。(と読んでいて感じる)

一方綾香のほうも、パン職人として修行を積んでおり、毎週金曜日から水曜日まで朝3時半から真面目に努めている。

そして、二人で支えあい生きている。

そんな二人の中が第3巻では「ひずみ」が生じ始めている。

その始まりは「ネズミ男」と二人が呼んでいる綾香の店に40円のパンの耳を買いにくる変な男に惚れられて、「砂かけババア」と呼んでいるネズミ男の母親に結婚を迫られてたときに、断る時に話した言葉
「私のような人間は、一人で生きて、一人で死んでいくべきだと思っています。」
を、芭子が聞いてからである。

芭子は、祖母から引き継いだ家を、将来的には、自分のアトリエと綾香のパン屋にしたいと思っている。だから、裏切られたと思っている。
そして、その言葉を聞いて以来、実は二人はさらに深い絆で結ばれることになったのである。それは、もっと深くお互いを知り気遣うことになったからである。

そういう中で芭子は、綾香が残してきた息子の行方を追うために、綾香の故郷である仙台に赴く。

それは、2011年3月11日であった。

その部分から本日読んだのである。なんという巡り会わせだろう。
通常、あとがきを先に読んだりしているのに、今回は読まずにいたので驚いた。

更に、地震の描写やその後の行動について、なんてリアルなんだろう、と思っていたら、実は作者が本書の取材のために当日仙台を訪れていたのであった。

3.11以降、芭子と綾香の人生は大きく変化していく。
特に綾香は震災復旧・復興のボランティアに大きくのめり込んでいく。


本書を読むと、いわゆる「罪と罰」あるいは「許す」についていまさらながら考えさせられる。

この物語の主人公二人は罪を犯し裁かれ刑に服した。
そのことで、いわば「みそぎ」が終了し、刑務所を出たら「普通の生活」を行うことに法的には何ら支障がないはず、である。

しかし、世間はそれを許さない。罪は一生ついて回り罰も一生のものなのだ。

更に、犯罪者の身内も、罪を犯していないのに社会的な制裁を受け、いわゆる「まともな生活」を営むことはできない。

近頃、悲惨な事件が起き、ネットを通じてその家族の状況などが出ている。しかも、時には間違った情報まででている。
それはそれでしょうがないかな、という気持ちもないではないが、「なんだかなあ」というカンジがする。

そして、この物語の二人のように、なんとか生きようとしている者もいる。

物語の最後で綾香が言う。
つまり私は、―――初めて後悔したっていうことです。そういう人たちを見て死んでも死にきれない気持ちに違いない、赤ん坊からお年寄りまでの、あまりにもたくさんの仏さんたちを見ているうちに、ああ、何も殺すことはなかったんじゃないかって。私が逃げだせばよかったんです。警察にでもどこにでも駆け込んで、周りに助けを求めて。生命だけは―――奪っちゃいけなかったって」
涙が流れる。

ちょっと今日は興奮してしまったが、もう一度、時をおいて読み返してみようと思う。

そしてこの二人「芭子と綾香」が少しでも幸福に生きていってもらえればと心の底から思うのである。


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