読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

イノセント・ゲリラの祝祭 海堂尊 宝島社文庫

2010-02-01 22:06:45 | 読んだ
海堂尊の小説である。

つまり、この小説だけ読んでも面白いが、他の小説を読んでいるとなお一層面白い、のである。

代表作といってもいい「チーム・バチスタの栄光」が前提にあって、この物語と同時並行的に「極北クレイマー」があって・・・であれば「ジーン・ワルツ」も、ということは「マドンナ・ヴェルテ」もか・・・
それに、登場する人物たちを追えば「ひかりの剣」も「ブラック・ペアン」も・・・

ということで、海堂尊の小説を多く読んでいる人ほど面白い、ということになる。
これは、あらたな作風なのか、それとも売上の相乗効果を狙っているのか・・・

基本的には「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」「ジェネラル・ルージュの凱旋」という田口・白鳥シリーズの第4弾ということなんだろうが、実際には、これらのシリーズとは違い『日本の医学』或いは『日本の司法』いやいや『日本』に正面から挑んだ作品ではないだろうか。

物語は例によって、東城大学医学部付属病院の不定愁訴外来の田口が高階病院長から厚生労働省の審議会へ出席を要請されるところから始まる。(といってもその前段に殺人事件があるのだが・・・)

で、この審議会への出席要請は、これも例によって厚生労働省のあの「白鳥」が絡んでいる。

そして、この物語の主題は、著者がずっと言い続けていること、「チーム・バチスタ」にも取り上げれ(そのほかでも取り上げられているけれど・・・)、そしてこの前それで裁判に負けちまった『AI診断』である。

「AI診断」とは、異常死などのばあい、亡くなった人をCTで撮影し、死亡原因を特定する手段のことである。

この物語では、厚生労働省の審議会を舞台に『AI診断』について語られている、というか、なぜ国はAIを認めないのか、それは法医学会や病理学会が反対しているからである。なぜ反対するのかということは、ただひたすらに「自分」を守るだけである、ということ。

私、海堂尊産のことを心配してしまいます。

つまり
「いいのかこんなことをここまで書いて」
ということである。

それだけ、熱い思いが込められているように思うのである。
解説で、前衆議院議員で前「異常死死因究明制度の確立を目指す議員連盟」事務局次長のg橋本岳氏は、この物語はフィクションであってノンフィクションだ、と書いているが、読んでいてもそういうことが感じ取られる。

AI診断がなかなか取り入れられない背景には、日本の現状制度の硬直化がある。
なぜ、日本の制度は硬直化しているのか?

本書の終盤の審議会において、田口の後輩でAIの推進を進めている彦根の言葉の一つ一つが胸を貫く。

我々はもっと我々の社会について考え語らなければならない。
そう思った。

だから読書はやめれられない。

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コメント (2)
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