尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「牝犬」「バージンブルース」「新幹線大爆破」などー6月の映画日誌

2014年06月29日 23時56分15秒 |  〃  (旧作日本映画)
 今フィルムセンターで増村保造作品を見ているが、それは別にまとめたい。神保町シアターで何本か見た「エロスのある風景」特集を見た。中平康監督「結婚相談」は芦川いづみが結婚相談に訪れた沢村貞子が所長をしている相談所が怪しげで、芦川いづみが窮地に陥っていくという奇怪な作品だった。沢村貞子は様々な役をこなした名脇役だけど、増村保造が伊藤整原作を映画化した「氾濫」では、若尾文子の母親ながら船越英二に誘惑されてホテルに連れ込まれていた。おっと、びっくり。

 木村恵吾監督「牝犬」は京マチ子のビッチぶりが凄まじい。木村恵吾は戦時中に「歌ふ狸御殿」を作り、戦後は「馬喰一代」や「痴人の愛」で知られる。この映画では京マチ子が何と志村喬をたらしこんでしまう。志村喬は館林支店に集金に行った帰りに、浅草のダンサーに入れあげて失踪した部下を探しに行く。そこで金を入れたカバンを忘れ、そのままいかれてしまった。「嘆きの天使」である。
(「牝犬」)
 久松静二「沙羅の門」は、水上勉原作の映画化で琵琶湖の近くの村の寺が舞台。森繁久弥の住職が妻の死後、後妻をめとる。と思うと、禅宗では籍を入れてはいけないとか。草笛光子の後妻と、団令子の先妻の子が助け合って、仏教の女性差別を照らし出す。森繁が一度も籍を入れてないから、「独身を通して仏に仕えた」と称揚されるラストのグロテスクな論理に驚いた。

 藤田敏八「バージンブルース」(1974)は、40年ぶりの再見。秋吉久美子三部作の最後である。この年、かぐや姫の「神田川」がヒットし映画化争奪戦になり東宝が獲得した。そこで日活は「神田川」の次のシングル「赤ちょうちん」を秋吉久美子で映画化してヒット、続いて「妹」「バージンブルース」を作った。その年、夏の参院選東京選挙区に突然野坂昭如が立候補し、善戦した。野坂昭如は永六輔、小沢昭一と「中年御三家」と称して歌手をしていて、「バージンブルース」はそのときの持ち歌。
(「バージンブルース」)
 映画はやはりあまり成功していないのだが、岡山に秋吉久美子と長門裕之が流れていく様が非常に懐かしかった。秋吉久美子は浪人生で、寮の先輩に万引きに誘われ、発覚して逃げいているのである。これを見たのがちょうど浪人時代で、予備校に行っていたのだけど、この秋吉久美子三部作は全部見に行った。倉敷の大原美術館の庭で野坂昭如が「黒の舟唄」を弾き語りするシーンがあった。倉敷は初めての一人旅で高校生の時に行った町。映画というより、ただただ懐かしかった。

 続いて武田一成「おんなの細道 濡れた海峡」を見た。日活ロマンポルノで、日活100年で特集された時に見逃した。東北を三上寛と女たちがさすらう映画だとは知ってたけど、田中小実昌の原作とあった。三上寛がいつも「ポロポロ」とつぶやいていて、これはコミさんの最高傑作「ポロポロ」にインスパイアされた作品のようだった。ビックリしたなあ。

 シネマヴェーラ渋谷の千葉真一特集で、「新幹線大爆破」と「ファンキーハットの快男児」を見た。である。後者は深作欣二の初期短編で、当時の東京ロケが今見ると楽しい小編。こういう勢いのある短い映画は見ていて楽しい。一方「新幹線大爆破」は公開当時以来の再見で、当時実はあまり評価しなかったのだが、フランスでヒットしてだんだん日本の犯罪映画の傑作として伝説化した。今回はニュープリントなので、まあ見てみようかと思ったのだが、やはりどうも乗れない部分が多かった。もちろん基本アイディア(新幹線が減速すると爆発する)はいいのである。でも、倒産した中小企業主、「全共闘くずれ」、沖縄生まれの青年という犯人側の構成が実にイージーで興を削ぐ。
(「新幹線大爆破」)
 犯人側は北海道の現場でタバコの吸い殻から身元を突き止められるなど、愚の骨頂。対応する国鉄や政府も決まりきった感じで、乗客になるとほとんど個性のない大勢が右往左往している。中年男(高倉健)が脅迫電話をかけているのが明らかなのに、せっかく共犯が出てきても泳がせずに逮捕しようとして失敗する。警察側の対応も愚かである。特に、長瀞でカネの受け渡しをしようとするところで、その男を捕まえてくれと通りかかったランニング中の柔道部員に頼むところはアホらしい。まあ、日本警察の無能を描くのかもしれないが、そういう対応が続いてどうもシラケる。

 ラスト近く、高倉健が山本圭に「もし金が手に入ったらどこに行くか」と聞いて、「革命がうまく行った国に行ってみたい」というのには、ほんと呆れた。なんだ、それはどこのことか。そんな国は世界のどこにもない。そこから出発してないから、ミスを犯すのである。はっきり言って、愕然とした。せっかくのアイディアがもったいないなあと昔思ったけど、今回見直してもほとんど同じ思いだった。
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