尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

原発事故・必読本

2011年08月25日 23時59分45秒 |  〃 (原発)
 本の話をしばらく書き続けたいんだけど、まず第1陣は原発事故関係の本。時間が経つと書く価値が薄れるのでまず記録しておくことにします。1冊目の本は、岩波新書の今月新刊広河隆一「福島 原発と人びと」。これは必読です。760円。全然難しくないから、このくらいの岩波新書は買いましょう。

 広河隆一さんはフォトジャーナリストとしてパレスティナやチェルノブイリなどの取材を続けてきた人で、雑誌「DAYS JAPAN」の編集長でもあります。1943年生まれで、すごく有名な人。チェルノブイリ支援運動なんかで僕にも親しい名前です。事故から半年近くたって、もう事故当時の緊迫感を忘れつつある部分があります。広河さんは事故直後に現地へ向かい、チェルノブイリ取材の経験を生かして、放射線の危険性を訴え続けました。現地の人々の声がいっぱい入ったこの本は、写真入りでとてもわかりやすく、中間まとめの本として必読だと思います。

 これでわかることは、(当然と言えば当然なんだけど)、政府はあたふたするだけで有効な対策を打つことができず、最初の数日の一番重大だった時期の避難態勢が問題だったことです。
 「政府」と言ってもそういう人はいないわけで、政治家は放射線のことはわからないので、保安院とか原子力委員会とかそういうポストの学者に聞くしかないけど、彼ら御用学者は頭の中が「想定外」で機能しなくなっていて、もともと人権意識が低いからそういうポストにいられたわけで、役に立たなかったわけです。ここで反原発派の学者を招くようなことはできていたらいいんだけど…。社民党が連立離脱する前だったら少しは違っていたかね。

 そして、その結果放射線をめぐる「新しい差別」を生み続けているということです。原発事故でまた「非科学的な無知と差別意識」から福島の人々への言われなき差別待遇が生じてしまいました。ハンセン病市民学会に行ったとき、ハンセン病回復者の皆さんが、この「新しい差別」に心の底から怒りと連帯感を表明していたことに感動しました。しかし、その後の動向はこの本で読む限り、かなり大変な状況。「自分の頭で考える」という当たり前のことを忌避する言動が、行政側にも市民運動側にもあるように感じます。

 そんな中で、前に6月25日付ブログで紹介した安斎育郎さんの「からだのなかの放射能」(合同出版)という本は貴重です。もっとも1979年の本に増補したもので、前半の科学史のエピソードが今となっては「のんき」に見えなくもないと自分で言ってます。しかし、この大変なさなかにも放射線の本質をきちんと知ろうというためには、ここが大切だと思いました。まあ、要するに歴史系の話は興味があるんですね。

 で、その結果、核実験や原発事故の話の前に、自然放射線の話で本の半分が終わります。いや、案外からだの中の自然放射能は多いんですよ。全部合わせても1円玉の半分にもならないって後書きで書いてますが、つまり1円玉の半分近くの放射能が自然に体内にはあるのです。(だからごく微量の放射線被ばくが直ちに危険ではないわけですが、だからと言ってそれが安全なわけではないので、自然以外の放射線被ばくは極力減らす努力をすべきです、と言ってると僕は理解しました。)
 考古学で有名な「炭素14法」で知られるように、有機物は(生物はすべて)放射性炭素を持っていますが、それがどのくらいあるのか、どういう意味を持つのか、この本で初めて知りました。しかし、からだの中にたくさんある炭素(炭水化物が主食なんだから)よりも、筋肉に蓄積されるカリウムの中に自然に存在する放射性カリウムの方がずっと多い。しかも脂肪の多い女性より、男性の方が体内放射能が多いなど、聞いたことがありますか?また、入れ歯をピカピカにするために、昔アメリカで発明された方法がウランを入れ歯に塗るという方法だということで、ホントかね。今は使われていないということですが。

 そもそも放射能って何だ、半減期って何だ、ウランやラジウムって何だ、というあたりから判りやすく書かれています。まあ、僕は科学の話を書くと間違いそうだから書きません。そんなに難しい本ではないので是非自分で読んで見て欲しいと思います。
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