尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

伊方原発、恐怖の「全電源喪失」

2020年01月29日 22時43分44秒 |  〃 (原発)
 四国電力伊方原子力発電所(以下、伊方原発)で、25日午後3時45分頃に発電所内が一時停電し「ほぼ全ての電源が一時的に喪失した」。10秒後に非常用のディーゼル発電所が起動したため復旧したとはいえ、これは原発に潜む危険性を改めて示したものだ。「そういうときのための非常用電源が役に立った」などと安全性を過信するような判断をしてはいけない。
(伊方原発)
 伊方原発は四国電力唯一の原発で、愛媛県伊方町、四国の西北部、九州に向かって突き出た佐田岬半島の付け根あたりにある。3号機まであるが、1号機は2016年に廃炉が決定され運転を中止、燃料も搬出済み。2号機も2018年に廃炉が決定している。1994年に運転を開始した3号機のみが後述する裁判を経て、2016年8月に再稼働した。ただし、2019年12月26日から定期点検中だったため、トラブル発生時に稼働していた原発はなかった。(もちろん放射性廃棄物を冷却し続ける必要がある。)

 伊方原発に関しては、2020年1月17日に広島高裁運転差し止めの仮処分を決定した。伊方原発に関しては1973年以来何度も差し止め訴訟が続いてきた。ことごとく退けられてきたが、福島第一原発事故以後の2011年12月に松山地裁に大規模な訴訟が提起された。その訴訟では2017年7月に松山地裁、2018年11月に高松高裁が再稼働を容認する決定を下し、伊方原発が再稼働できた。

 一方、2016年3月に、今度は別の差し止め訴訟が広島地裁に提訴された。伊方原発の場所は本州や九州にも近く、四国外にも周辺住民がいる。その裁判の原告のうち山口県民3人は、本体訴訟とは別に2017年3月に山口地裁岩国支部に差し止めの仮処分を申し立てた。これに対し、2017年3月に山口地裁岩国支部は申し立てを却下。住民側が即時抗告し、その抗告審で2020年1月17日に申し立てを認める仮処分が出たのである。
(仮処分決定後の裁判所前)
 一方で本体訴訟は2017年3月に広島地裁が退ける決定を出した。それに対し、2017年広島高裁阿蘇山大規模噴火時の危険性を理由に、差し止めを認める決定を出した。この決定に対し、四国電力が異議を申し立て、2018年9月に広島高裁は一転して再稼働を容認する決定を出した。伊方原発に関しては、広島、松山、大分、山口の4県で訴訟が起こされている。原告側が「伊方原発運転阻止瀬戸内包囲網」と呼ぶ状況である。その中で、2回も差し止めを認める決定が出たことは重大だ。

 伊方原発では2016年に1次冷却水系統のポンプのトラブルなど、様々な事故が起きてきた。さらに、設置場所からして阿蘇山の噴火活断層の評価など大きな問題がつきまとう。何しろ下の地図で判るように、日本を横断する「中央構造線」のほぼ真上に立地しているのである。四国電力は異議申し立てを行ったが、仮処分決定は直ちに効力を持つため、定期検査が終了しても再稼働はできない。しかし、その定期点検も今回の「全電源喪失」事故をきっかけに中断された。
(中央構造線と伊方原発)
 裁判もタダじゃない。1号機、2号機も廃炉が決まった原発で、無理して3号機だけ稼働を続ける意味がコスト的に考えても四国電力にあるのだろうか。他の原発だって事情は同じだけど、「全電源喪失事故」なんて聞いたことがない。立地上の問題も解決しようがないから、3号機も廃炉にするしかない。
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