尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

瀬川昌治監督の映画が面白い!

2016年01月13日 00時04分28秒 |  〃  (日本の映画監督)
 神保町シアターで瀬川昌治監督特集をやっている。瀬川昌治(せがわ・まさはる、1925~)は60年代、70年代に東映、松竹で主に喜劇映画を作っていた監督で、ひたすら「プログラム・ピクチャー」(映画会社の路線に沿って量産される娯楽映画)を作った。「映画作家」としての評価は同時代的にはなかったけど、その後再評価されているという話。映画館のある神田神保町の生まれで、学習院から東京帝大で、三島由紀夫の一年下、東大では野球部で六大学シリーズ戦に出場していたという。

 「泣いて!笑って!どっこい生きる!」とサブタイトルが付いている。こういう感じの映画は若い時は苦手で、70年代の同時代には全然見たことがない。大体、アメリカン・ニューシネマ(「イージーライダー」とか「ファイブ・イージー・ピーセス」とか)や、ゴダール、フェリーニ、パゾリーニなんかを見るのが映画と思っていた。日本映画は大島渚とか寺山修司とか若松孝二とか…。日本でも日活ロマンポルノ東映実録ものは名画座等で見ていた。大手の会社ではあるけれど、「反体制」カルチャーだから、見ても良かったのである。

 1972年に作られた「喜劇・誘惑旅行」とか「快感旅行」なんて題名だけで敬遠。というか、お金の問題で主に名画座で見ていたから、文芸地下や並木座でやってくれない映画は見る機会がない。今回やる16本の中で、見ている映画は三國連太郎主演の「馬喰一代」だけだ。これも見たのは最近の三國連太郎追悼上映である。北海道を舞台に、荒くれの三國と新珠三千代の純情が素晴らしい文芸映画の佳作だった。だから、喜劇映画は今回初めて見た。

 日本の会社システムで作られた映画は、スタッフが長年の技量を磨いてきているから、美術、照明、衣装、編集などの技量が半端じゃない。最近のようにデジタルで撮りやすくなると、昔の映画の総合的な技術力の高さに圧倒されることが多い。それでもつまらない映画も多いし、テーマや設定そのものが古くなったものも多い。特に「喜劇」は全然面白くないこともある。セクハラ、パワハラ、ストーカーの概念がなかった時代は、物語のコードが全然違ってがく然とする時もある。

 見たところ、「列車シリーズ」と「旅行シリーズ」の出来のよさにビックリ。発見だった。「列車シリーズ」は、東映で渥美清主演で3本作られた。出来映えをみた松竹の城戸四郎社長が引き抜いて、「旅行シリーズ」を作らせた。1968年から1972年まで11本も作られた。フランキー堺主演である。これらは主人公が鉄道職員で、「ロード・ムービー」の日本型変種ではないかと思う。各地でロケして、「観光映画」でもある。「喜劇 急行列車」(1967)は、渥美清が寝台特急の専務車掌で、東京から長崎(「さくら」)、鹿児島(「富士」)に乗務している。国鉄の協力とあるから、ホンモノを使っているのだと思う。素晴らしい「鉄道映画」になっていて、鉄道が大きな意味を持つ社会だったと強く感じる。
(喜劇急行列車)
 「喜劇 逆転旅行」(1969)は青森の車掌をフランキー堺が演じ、十和田湖や秋田の竿灯まつりがうまく使われている。竿灯まつりのシーンなど、非常にきれいで観客からオッという声が上がった。フランキーは幼なじみの倍賞千恵子に惚れられているが、本人は料理学校講師の佐藤友美に夢中である。倍賞千恵子にせまられて迷惑な人がいるのかと思うけど、「男はつらいよ」公開直前の映画である。先輩車掌に伴淳三郎、後輩車掌に森田健作で、ウェルメイドなコメディが展開する。こういうウェルメイドな、すべてがうまく収まるコメディは若い時はウソっぽくて嫌だった。いかにも保守的な感性に思えたのである。でも、今見れば芸達者の競演を楽しみ、列車や各地の風景を楽しみ、流れるように物語が進行する至福の映画ではないか。
(喜劇逆転旅行)
 「喜劇 男の泣きどころ」(1972)は「喜劇 男の腕だめし」(1974)、「喜劇 女の泣きどころ」(1975)と3本続く太地喜和子がストリッパーを演じるシリーズ。これはまた、松竹にこれほど「ヌード全開」の映画があったのかと驚いた。ごひいきの太地喜和子が出ているけど、見ていなかった。一本目はフランキー堺が警視庁のポルノ取締り係。戦友の藤岡琢也がポルノ製作の社長で、笠智衆がポルノ映画の「巨匠」をやってるのがおかしい。基本、ウェルメイドなコメディなんだけど、見ていて飽きない。「職人技」を楽しめるのである。

 評価が高くなってきた「瀬戸はよいとこ 花嫁観光船」(1976)や高知県の駅員をフランキー堺が演じる「喜劇 よさこい旅行」(1969)、また谷啓主演の「喜劇 競馬必勝法 一発勝負」(1968)、再来週になると愛川欣也とタモリが出ている「喜劇役者たち 九八とゲイブル」(1978)、ビートたけし初主演の「哀しい気分でジョーク」(1985)といった同時代的に全く覚えていない映画も登場する。いやあ、愛川欣也とタモリ!? そんな映画があったか。その後もテレビで10年ぐらい前まで大活躍していた。今になると面白く見られるし、ウェルメイドを楽しめるというのは、こっちも角が取れたのか。年取ったのかとも思うが、やっぱり楽しく見られるのも必要である。
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