尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

青山真治監督の逝去を悼む

2022年03月26日 22時39分26秒 |  〃  (日本の映画監督)
 映画監督の青山真治が亡くなったというニュースは驚いた。何しろまだ57歳だった。昨年春から食道ガンの治療を続けていたが、3月21日に死去。相米慎二監督が2001年に53歳で亡くなった時も驚いた。もう随分昔のことだが、1984年にフランソワ・トリュフォーが52歳で、1986年にアンドレイ・タルコフスキーが54歳で亡くなった時も、非常に好きな映画監督の作品がもう見られないことが悲しかった。僕は青山監督がお気に入りでよく見てきたから、今後の作品が見られないことが本当に残念だ。

 青山真治は1964年生まれで、1989年に立教大学文学部英文学科を卒業とウィキペディアにある。立教大学出身の映画監督はこの世代に多く、1955年生まれの黒沢清、1956年生まれの万田邦敏らを先頭に、塩田明彦青山真治を輩出した。日大芸術学部などと違い、映像や芸術などの学部がない中で自主映画サークルからプロがこれほど出たのは奇跡だ。僕は大学で黒沢清らの自主映画上映会に行ったことがあるが、青山監督とは世代が違っていてキャンパスで知らずにすれ違ったこともないだろう。

 「Helpless」(1996)で劇場映画にデビューしたが、僕は見ていない。その後の「WiLd LIFe」「冷たい血」なども見てなくて、最初に見たのは「シェイディー・グローヴ」(1999)。なかなか面白かった記憶があるが、傑作とまでは思わなかった。それが次の「EUREKA」(ユリイカ、2001)が世界映画史上に残る大傑作だったので驚倒した。217分もある長大な映画に完全にノックアウト。カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞エキュメニック賞を受賞した。題名はギリシャ語で「発見」の意味。
(「EUREKAユリイカ」)
 九州で起きたバスジャック事件で心に傷を負った運転手(役所広司)と乗客だった中学生姉妹(宮崎あおい宮崎将)が再生のため旅に出る。少年によるバスジャック事件(2000年5月)がロケで使った西鉄バスで現実に起きたが、その時点で映画は完成してカンヌ映画祭の上映を控えていた。恐ろしいまでのシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)である。1997年に少年による神戸連続殺傷事件が起き、「少年犯罪」が重大問題となっていた。この長大な「癒しと再生の一大叙事詩」は、僕の魂を直撃する傑作だった。「再生」に向かうには、ここまでの長さが必要だった。監督自身によって小説化され、三島由紀夫賞を獲得した。

 その後の「月の沙漠」「レイクサイド・マーダーケース」「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」「こおろぎ」「AA」などは見てないのもあるが、見たものも今ひとつ。「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」は浅野忠信宮崎あおい筒井康隆も出ている近未来SFのディストピア映画。そういうムードは嫌いじゃないけど、何となくまとまってない。「こおろぎ」は長く公開されず、ちょっと前に見たけど完全に失敗作。やっと納得できたのは「サッド ヴァケイション」(2007)だった。監督が生まれた北九州を舞台にした作品で、暴力と家族の葛藤を突き詰めていた。浅野忠信、石田えり、宮崎あおい出演。
(「サッド・ヴァケイション」)
 その次が2011年の「東京公園」でロカルノ映画祭グランプリ。映像が魅力的な割に、内容が今ひとつ判らなかったが、三浦春馬主演で最近上映機会が多くなった。幽霊が出て来る設定なので僕は苦手。最高に素晴らしかったのは次の「共喰い」(2013)。田中慎弥の芥川賞受賞作を映画化したもので、芥川賞受賞作の映画では熊井啓「忍ぶ川」(三浦哲郎原作)、村野鐵太郎「月山」(森敦原作)とともにベスト3だと思う。原作は下関で、監督の生まれた北九州と近く、風土的に共通性がある。父子の相克を厳しく見つめた作品で、今までの作品と同じく血縁と暴力がテーマになっている。父は光石研だが、息子は名前を知らない若手俳優だった。しかし、それが菅田将暉だったのである。もう一回見直したい作品である。
(「共喰い」)
 遺作となったのは、2020年の「空に住む」だが、主演の多部未華子の魅力は出ているものの全体的には僕は好きじゃなかった。2010年代になってからは、長編劇映画が少なかった。短編映画、舞台演出、小説や批評などは多いものの、それよりも2012年に多摩美大教授に迎えられたことが大きいのだと思う。僕としては、東京を舞台にした映画は映像は素晴らしいが、今ひとつ。全部の映画が好きなわけじゃなく、郷里の九州を舞台にした暴力や血縁の悩みからの再生を求める映画が素晴らしいと思う。今後改めて評価されていくと思うが、何と言っても「EUREKA」が日本映画史に残る傑作だと考える。しかし、また見る元気はないかもしれない。
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