尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

教育産業が部活を経営するときー「部活改革」を考える③

2022年05月09日 22時32分55秒 |  〃 (教育問題一般)
 「部活改革」に関しては、4月にもう一つ大きなニュースがあった。4月16日付朝日新聞スポーツ欄に出ていた「開かれる憧れの『全中』」「全国中学大会 来年度地域クラブ容認」という報道である。内容は見出しを読めば判るだろうから、特に詳しくは書かない。記事によれば、実現に際してはなかなか難しい問題も残っているようだが、基本的には実現するだろう。もっとも、すでに地域クラブがリーグ戦を行う仕組みを整えているサッカーでは、リーグ戦が大切でトーナメントは必要ないという。しかし、総合型地域スポーツクラブからは「画期的」という声があると載っている。

 中学で実現すれば、やがて学年進行で「高校はやらないのか」という動きも出て来るだろう。僕が前に書いたように、「高校野球大会」から「高校生野球大会」へと変わる日も遠からず訪れるのではないだろうか。ただし、Jリーグチームの下部組織が整備されているようなサッカーは例外だ。サッカーは五輪では「23歳以下」という制限があり、年代別のワールドカップが行われる。それに対し、野球駅伝のように「高校」「大学」の競技として定着している競技も多い。だけど、高校野球のように、私立強豪校ばかりが全国から有力選手を集めて、地元出身選手がほとんどいないのに地域代表として出場するというのはどうなのか。

 ①②で書いたように、少子化がさらに進行していく中で、教員の長時間労働問題も解消しつつ「部活動」を行っていくためには「地域移行」が避けられない。しかし、…と多くの教員は思っているに違いない。それは果たして本当に実現するのか。一体地域で活動する人を集められるのか。学校との連絡は十分に出来るのか。土日に行われることが多かった試合はどのように運営されるのか。地域で活動する指導者の研修はどのように行うのか。昔風の高齢指導者では、昔ながらの暴言や体罰が出かねない。一方、卒業生の大学生などに頼んだら、指導力に問題があったりSNSにどんどん生徒の画像を投稿したり…、いろんな心配がある。

 じゃあ、どうすれば良いのだろうか。結局のところは、「教育産業」が「教育行政」と協力しながら、新しい部活動のあり方を模索していくということになるだろうと思う。要するに、今までは部活も学校の諸活動の一部として、学校予算から必要な用具を整備し、教員の引率費を支出していたわけである。それを地域に移行するというのは、新しい枠組を作ってそこに公費をつぎ込むということである。つまり部活動が「教育産業」になってくるのである。
(教育産業と部活動のイメージ)
 部活動とは、放課後や土日に中学生、高校生を集めて行うものである。それはつまり、「」や「予備校」と同じではないか。塾や予備校といえば、高校受験、大学受験に向けて勉強を指導する場所と思っている。だが、甲子園出場を目指して野球を指導する「野球塾」があってもいいではないか。それならば、教員の長時間労働問題は解消されることになる。生徒は学校が終わって塾へ行くように、学校が終わって「部活塾」に行くわけである。

 もっとも今「塾」と書いたけれど、現実の塾産業がそのまま地域の部活動に参入すると考えているわけではない。もちろん塾や予備校は少子化の中で、企業としての将来を模索しているだろう。今まで養ってきた教育界への影響力や企画力は非常に大きいものがある。だけど、スポーツや文化活動を実施する場所や人材はなかなか塾や予備校だけでは整備できない。スポーツ系では地域のスポーツクラブ、文化系では専門学校との協力が欠かせない。教育行政と関わりがあり、学校現場とのつながりも深い「教育産業」がネットワークの中心となって、行政や地域との関係を作る。そうするしかないんだし、そこにビジネスの可能性があるんだから、もういろいろな試みが検討されているだろう。
(気仙沼市の取り組み)
 それでは学校現場から部活動はなくなってしまうのか。今まで部活をガンガンやってきた教員はどうすれば良いのか。後者に関していえば、副業規定を柔軟にして、やりたい教員は部活指導員の資格を取って続けることが考えられる。地域でも土日の活動を担当する人には、平日は他の仕事をしている人が兼務することもあるだろうから、教員も同じ手続きでやれば良い。現場の一教員というよりも、全国大会運営の経験豊富なベテラン教師の場合なら、むしろ教育産業の方で三顧の礼をもって迎えるのではないか。部活に関するノーハウは企業が欲しいだろう。

 前者に関しては、今後も部活動は学校にあるだろうが、あり方は大きく変えるしかない。そもそも80年代頃の「荒れる学校」対策として、課外活動なのに全員参加のような理不尽なルールを作った学校があったことがおかしい。何も地域に移行した部活動に全生徒が参加する必要はない。生徒の本分は学業なんだから、勉強でつまずいている生徒が部活で偉そうにしている方がおかしかった。地域の部活動には、参加のためのセレクションを行うべきだ。

 学校では教員が担当できる範囲で、教員と生徒が一緒に出来る活動をやれば良い。そのためには「勉強系部活」を振興するべきだと思う。英語部、パソコン部(プログラミング部)などは生徒の希望も多いだろうし、国際交流部、環境活動部(SDGs部)、歴史研究部(郷土部)、漢字検定部など、いくらでも生徒も希望し、教員も担当できる部活動が考えられる。週3回程度、5時までの活動で成果も上がるはずだ。
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