尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「アマンダと僕」と「サマー・フィーリング」、ミカエル・アース監督の「喪の映画」

2019年08月08日 22時45分41秒 |  〃  (新作外国映画)
 フランスのミカエル・アース監督(Mikhaël Hers、1975~)の「アマンダと僕」と「サマー・フィーリング」を見た。もう東京でのロードショー上映は終わりつつあるけど、注目すべき新進監督の登場だ。ミカエル・アースは「アマンダと僕」が2018年の東京国際映画祭グランプリ脚本賞を受賞して注目された。もっとも東京国際映画祭グランプリは、自国開催なのに正式公開されないことも多い。僕も知らなかったんだけど、公開されたらなかなか評判がいいらしい。見てみたら、すごく心動かされた。そこで、前作の「サマー・フィーリング」も見ることにした。どっちも「喪の映画」だった。

 「アマンダと僕」はパリで生きるシングルマザーの話として始まる。英語教師をしているサンドリーヌ(オフェリア・コルブ)は一人娘アマンダ(イゾール・ミュリトリエ)と暮らしている。サンドリーヌには弟ダヴィッドヴァンサン・ラコステ)がいて、父母がいないため二人は仲良く行き来している。ダヴィッドは定職には就かず、貸しアパートの管理や公園の樹木伐採などのアルバイトをしている。アパートの仕事で知り合ったレナステイシー・マーティン、「グッバイ・ゴダール」の主役をやってた人)と仲良くなる。どこと言って特別な場所が出てくるわけじゃないけど、パリの風景が素晴らしい。

 このように途中までは、いろいろあっても幸せな日々が続いている。サンドリーヌは三人で行こうとウィンブルドン選手権のチケットを買って楽しみにしている。イギリスには訳ありで去って行った二人の英国人の母親が生きているらしい。そんな映画が途中で暗転する。これを書かないと話が進まないので書くことになるが、公園で銃を乱射するテロ事件が起きて、サンドリーヌが死に、レナが重傷を負う。フランスではここ数年いくつものテロ事件に見舞われた。そのことを嫌でも思い出すけど、具体的にどれかの事件を想定したものではなく、架空の事件のようだ。そして事件そのものはほとんど描かれない。いくらでもセンセーショナルに描けるし、お涙頂戴にできるはずだが、あえて葬儀のようすなども描かない。

 映画が見つめるのは、残された人々の悲しみ、戸惑う姿だ。どんな悲劇が起きても、生きている人には日常生活がある。この映画の設定では「アマンダをどうするか」である。父親の妹(アマンダの大叔母)がいて、時々面倒を見てくれる。しかし、学校の出迎えなどはできるだけダヴィッドが頑張っている。でも、自分の人生も定まっていないのに、姪を引き取って一生を子育てに費やす決心はなかなか出来ない。そんな姿を静かに描くのである。アマンダ役のけなげな演技には誰しも心動かされるだろう。こういう風に静かで心にしみこむ映画って、フランスというよりなんだか日本映画みたいだ。
(ミカエル・アース監督)
 3作目の「アマンダと僕」の前に作られたのが「サマー・フィーリング」。ベルリンで暮らす二人がいるが、女性サシャが突然倒れて亡くなる。同居していたローレンスは深い悲しみに打ちひしがれる。葬儀には彼女の家族もやってくるが、妹のゾエも深い悲しみに襲われる。この二人の2年間を追ったのがこの映画である。一年後はパリで、2年後はニューヨークで撮影されている。欧米の人々にとって、もう仕事や旅行で国を超えて移動するのが当たり前になっているんだろう。またサシャ、ゾエの両親はアヌシーに別荘を持っていてそこも出てくる。フレンチアルプスにある美しい町である。

 「アマンダと僕」を見た時も、映像の美しさに感銘を受けたが、「サマー・フィーリング」のアヌシーや三都の映像が素晴らしい。それはセバスティアン・ブシュマンが撮影した16ミリフィルムの効果が大きい。ちょっと粗いところがムードを出している。デジタル時代にこういう試みをする人もいる。木漏れ日や都市の夕景をこれほど美しく映し出した映画も珍しい。音楽も印象的。どっちの映画も「残された人々」を見つめる映画という共通点がある。ドラマチックに描ける設定だが、あえて外して淡々と描く。日本や世界で日々見る多くの非命の死者。というか、日本で言えば「東日本大震災」を思い出さずには見られない。こういう映画がフランスでも作られているという紹介。フランスは夏のバカンスがあっていいな。
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