尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

教員組合はどうなっているのかー再生への道はあるか

2023年06月01日 23時35分10秒 |  〃 (教育行政)
 「教員不足」という問題を考えてきた。どうやら教師という職は若い世代が目指すべきものではなくなっているらしい。非正規教員を増やし、いまやその「非正規」もなり手が見つからない。長時間労働のうえ、休日もつぶれてしまう。公立学校の場合、勤務時間に見合った残業代もない。となると、全国の教育現場には、怒りの声が満ち満ちていてもおかしくない。教師たちは労働組合に結集して、ストが頻発するなど騒然たる学校になっていてもおかしくないだろう。

 しかし、学校関係者には周知のように、今では教員組合は「絶滅危惧種」に近い。それは言い過ぎで、今でも組織率が高いという地域もあるだろう。だが文科省による最新の「令和4年度 教職員団体への加入状況に関する調査結果について」を見ると、右寄りや管理職の団体を含めても29.2%となって、前年までの3割台を割ってしまったのである。(2022年10月1日現在)

 内訳を見てみると、日教組(日本教職員組合)が約20万4千人で、20.1%。前年比で約7千人減である。続いて全教(全日本教職員組合)が約2万8千6百人で、2.8%。前年比で約2千3百人減。さらに日高教(右)(日本高等学校教職員組合)が7260人で、0.7%。前年度より270人減。全日教連(全日本教職員連盟)が約1万7千人で、1.7%。前年比で約1200人減。そして全管協(全国教育管理職員団体協議会)が3676人、0.4%その他が約3万6千人、3.5%である。一方、団体非加入者71万8650人、そのうち教員は58万0516人。比率で言えば70.8%(教員だけでは69.4%)になっている。

 細かいデータになって、知らない名前も出てきたと思う。全管協なんて聞いたこともないし、入っている管理職を見たこともない。いたとしても管理職なんだから、労働組合とは言えない。それを言えば、全日教連も自らを労働組合とは考えていていない。右寄りの組織で、かつて教育基本法改正を支持していたところ。栃木県で圧倒的なシェアを占めていて、他組合はほぼゼロに近い。愛媛県も日教組が非常に弱体で、県の研修組織はあるが組合参加者はほんの僅かと言われる。この両組織を除くと、23.6%ということになる。つまり4人に1人しか労働組合に入ってないわけである。
(日教組加入率の推移グラフ)
 かつて日教組は100%近い組織率を誇っていた。それが漸減していった様子は上記グラフで判るとおり。1989年に一挙に10%ぐらいポイントが下がったのは、ここで全教が分裂したからである。当時民間組合が合同して「連合」を結成し、日教組も加盟した。反対派は抜けて全教を結成したわけである。日教組は(当時)社会党支持で、全教は政党支持の自由を主張していたが事実上は共産党支持。「日高教」というのは、高校教員の組織だが(左)は全教と合同して、(右)だけが残っている。日教組と協力しているが、それなら日教組に加盟しても良いわけで、東京都ではそうなっている。
(日教組組織率のデータ)
 ここまで加盟組合員が減っても、日教組は今でも選挙の影響力は残っている。立憲民主党から参院選比例区に組織内候補を擁立し、2019年も2022年も上位で当選した。世の中的には、まだまだ「力のある組織」なのである。他の民間労組の力が落ちている中、全国どこにでもある役所と学校を基盤にする自治労と日教組が比較的「残っている」ということかもしれない。2022年は新人の古賀千景を擁立し、立民では第3位だった。票数が1万を超えたのは愛知、三重、兵庫、福岡で、他にも北海道、千葉、神奈川、大分などで7千票以上を獲得している。福岡は出身県だが、このように票が出る地域は日教組の組織率が高いのかもしれない。(都道府県別組織率は公表されていない。)
(古賀千景議員)
 公立学校教員は公務員として「団体行動権」(ストライキ権)をはく奪されているが、労働三権のうち他の「団結権」「団体交渉権」はある。そこで労働組合が結成されたわけだが、教育行政は「労働組合」ではなく「職員団体」と呼んでいるのである。かつて組織率が100%近かった時も、政府側が本気を出せば「勤評闘争」も敗北せざるを得なかった。それなのに、右派政治家たちは今も「ニッキョーソが教育を支配している」などとデマを飛ばしている。(安倍元首相は質問議員に「ニッキョーソ」とヤジを飛ばしていた。)5人に1人で支配するなんて、どうすれば可能なのだろうか

 ところが頭が昭和の右派が騒ぐためか、左派の中にも「教員組合は非常に強くて、教員の役に立っている」と思い込んでいる人がけっこう多い。現在の現場のリアルを知らないのである。教員の側も多忙すぎて、大変さを発信出来ない。すでに40年ぐらい前から、一番忙しい中学校ではほとんど日常的な組合活動は不可能になっていたと思う。校種別の組織率が出されてないのだが、小学校や高校が多いのではないかと思う。組織率が高かった時代を知っている教員はほぼ定年に達して、新採教員はなかなか加入しない。一度職場で活動が途絶えてしまえば、なかなか再建は難しい。

 今では労働条件に関して、組合で交渉して解決しようという発想自体、若い教員には存在しないだろう。何で組合組織率が低くなってしまったのか。一番簡単に言えば、「特典がないのにお金がかかる」ということだろう。芸能人のファンクラブに入るのは、特別にチケットの先行販売があったり、芸能人との交流会に参加出来るか、何か特典があるからだろう。ただ会員証を貰うだけのために、高いお金を払う人はいない。地方ごとに違うだろうが、東京や大阪のように組合敵視政策が長年続き、競争的教育政策が定着しちゃったようなところでは、組合に入っても組合費、動員、交渉などで大変なことの方がおおいのではないか。

 逆に言えば、今でも組織率がある程度高い地方では、まだある種の「特典」があるのかもしれない。教員が一番気にしている人事異動で事前に様子を聞けるとか。あるいは組合で活躍した経歴がリーダーシップとして評価され、管理職になりやすいとか。僕には判らないけど、そういう話もあるらしい。(東京では全く「特典」はないと思う。)だけど、職場で思ったことを自由に言えなければ、それはおかしな職場である。実は学校の多くはそうなっていると思う。教師も時間がない中で、「言っても仕方のないこと」を職員会議で発言して、自分でわざわざ多忙を推進したうえ校長からの評価を下げる行動は避けるだろう。

 それでも入っている4分の1の人は何が理由なんだろうか。やはり「職場の団結」を途絶えさせてはならないという思い。組合あってこそ、かつての先輩たちの頑張りで「産休」とか「病休」の時に代わりの教員が保証されるようになった。(東京都で60年代半ばに最初に獲得した権利である。)自分たちの世代も後の世代のために、組合を無くしてはいけないという思い。自分の場合は、まず第一に社会科で(歴史や現代社会などで)労働組合の歴史や権利について教えるということが大きい。昔は作れなかった労働組合が今は権利として認められていると生徒に教えておいて、自分はお金がもったいないから入らないでは通らないだろう。

 しかし、先のような発想ではもう組織率を高めることは不可能だと思う。学校できちんと世間話をする時間もないような中で、今では選挙に行かない教師さえけっこういる。そういう教師が子どもを教えるのである。だけど、どんな人でもこれで良いのかと思っている。普段は黙っているけど、何か思っているはずだ。それを従来の形の組合ではすくいきれない。政党支持を気にする若い人はほとんどいないだろう。職場で「分会」を作れというのは、今では無理な学校も多いのではないか。ネットで参加出来る個人会員を作るとか(組合ニュースは郵送だけでなく、ネット閲覧出来るようにする)。人事やパワハラも教育委員会に相談するより、組合が関わる方が良い場合も多いだろう。

 ここまで日本の教育が追い込まれているのに、教員組合の発信が少ない、というか一般社会にはほぼ聞こえないのはおかしい。最近理研で「雇い止め」が多数起こって問題化している。日本で勉強して、頑張って終身の研究者になることは無理な願いなのか。勉強しても仕方ない社会になっているから、若い世代も学校で教育に携わろうと思わない。政府は英語、英語とばかり言うが、これでは英語が出来る若い世代はカナダやオーストラリアやシンガポールなどに行ってしまうのではないか。
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1 コメント

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横浜市役所でも (サシダフミオ)
2023-06-03 20:05:00
横浜市役所でも、第一組合は「非組」です。
横浜市では共産党系が強く、旧社会党系は少ない上、「過激派」もいて、市職員でも「非組」が第一組合です。
教職員は、よく知りませんが、一時期は組合が6つあったそうです。

市職の方ですが、組合にいることの意味はあります。
それは、人事異動の時に、本人の意思を組合を通じて聞かれること。
さらに、内示のときに組合にも相談があることです。
すべて慣例にすぎませんが。
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