尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

2月の映画日記

2014年02月27日 23時08分01秒 | 映画 (新作日本映画)
2月27日(木)
 最近はシネマヴェーラ渋谷で園子温特集を見ている。ほとんどの映画が面白くて飽きない。見ている「愛のむきだし」や「恋の罪」も再見してもすごかった。これはいずれまとめて書きたい。その前に小津安二郎のカラー映画デジタル修復を見て、それも別にまとめたいと思っている。今回はそれ以外。
 キネカ大森で「恋の渦」を見た。「地獄でなぜ悪い」を2本立て。こっちは園子温なので、そっちで書く。松本俊夫の「薔薇の葬列」「修羅」も同時に2本立てでやってて、こっちも見たかったけど、まあ見てるからやめにして新作を。「恋の渦」というのは、今度「愛の渦」というのが公開される劇作家三浦大輔の劇を「モテキ」の大根仁が監督した作品。20代の男女9人がパーティで集まり、その後2週間の彼らの動きを見つめる。とても面白いけど、こんな後味の悪い映画は「黒い画集 あるサラリーマンの証言」とか「霧の旗」なんか以来かもしれない。いまどきの「下流青年」はこんなものか。愛というより「支配」ばかり。実にヤナ感じ。映画としてほめてるので間違えぬよう。

 園子温の前にシネマヴェーラでは谷口千吉特集をやってた。見てないのが結構あるけど、多くは見れなかった。実は「ジャコ万と鉄」の三船版を見てなかったので初めて見た。終戦直後の北海道ロケが迫力で、俳優も素晴らしい。深作欣二、高倉健のリメイクより、やはり第一作がいい。併映の「独立機関銃隊未だ射撃中」はソ連軍侵攻直後の関東軍を扱う。迫力はあるが、こんな場所があったのか。ソ連の宣戦布告後に総崩れしたはずなのに、広島、長崎が壊滅したらしいなどと話してる。そんな情報がソ連戦の最前線に伝わると思えないが。そんな最前線に開戦後に新兵が送り込まれるのも変。

 神保町シアターの伝記映画特集は結構見てないので見るつもりだったけど、園子温の方が面白いのであまり行かないでいいことにした。三隅研二の日本初の70㍉「釈迦」を見てないので、一応有名なので見ておこうかと思った。カラーはキレイで、まあ雷蔵が出てるからどこかでニュープリントにしたんだろうけど。話がつまらないので、退屈した。お釈迦様の映画化というコンセプトの中で、壮大なる空虚が展開される。雷蔵、勝新、山本富士子、京マチコら大映スター総出演。杉村春子、千田是也、滝沢修と戦後新劇の大御所勢揃い。まあシャカ本人は本郷功次郎なんだけど。どうせなら歌舞伎なんかからもキャスティングしておいてほしかった。

2月13日(木) 
 チャップリンを見ないようなことを書いたが、次の日に見てなかった「チャップリン ライフ&アート」という記録映画を見て、とても勉強になった。そこで「ライムライト」と「サーカス」そして「のらくら」「担え銃」を見た。改めて感じたことも多かったので別に書きたいと思いつつ時間がない。
 大雪をはさんで、月曜に早稲田松竹で「凶悪」「地獄でなぜ悪い」を見ようと思うが満員で入れず、池袋の新文芸坐で「クロニクル」と「グランド・イリュージョン」というのを見た。チャップリンの時に予告編を散々見て面白そうだった。「クロニクル」は「キャリー」風の結末になっていく超能力ものだが、アメリカの高校生の様子も面白い。後者はいつ上映されたかもよく覚えてないが、実に面白いマジックもので最後まで目が離せない。こういうのは好き。
 11日に神保町シアターで「雨情」。野口雨情の映画だけど、伝記映画特集だって言うのに、冒頭に「これは野口雨情の伝記映画ではない」と出る。森繁主演、久松静児監督の文芸映画。雨情は北茨城の出身で、茨城県の風景が良かった。でも、今は雨情生家も見せているが、生きてる時は名家をつぶしたどうしようもない人間と思われていたらしい。

 続いて、フィルムセンターで「ロイ・ビーン」。これぞ思い出のもう一度見てみたかった映画。73年の公開時に大興奮した。ジョン・ヒューストン監督、ポール・ニューマン主演の傑作だけど、脚本がジョン・ミリアスだったのか。ヒューストンは低迷を脱してこの後は傑作を連発する。テキサス西部に、自分で判事を名乗って「首つり判事」と言われた実在のロイ・ビーンという人物を、レジェンドを物語る心意気でうたいあげた大西部挽歌のような作品。この当時そういうのがかなりあった。ペキンパーの「ケイブルホーグの伝説」(砂漠の流れ者)とか。体に穴が開く銃撃とか、とにかく「ほら話」を語るという感じに魅せられる。エヴァ・ガードナーが演じるリリー・ラングトリーという女優(実際はイギリスで活躍した人)に憧れるのがおかしい。最後に本人が現われる設定にも笑えて泣ける。東和配給だったおかげでフィルムセンターで再見できてうれしい。
 
 昨日はまた早稲田松竹で満員で、ユーロスペースで北欧映画祭を見た。「馬々と人間と」という「馬目線」で描いた奇妙なアイスランド映画。続いて「アンバサダー」。デンマーク人監督がアフリカのリベリアの大使職をカネで買う。そういうビジネスがあるんだと。中央アフリカ大使となって、反政府派が支配するダイヤ地帯などを訪れ盗撮した映像をまとめた。奇怪な映画体験で、他の作品を夜に見るつもりが、口直しにフィルムセンターで昔の「旅情」を見直した。さすがにデヴィッド・リーン、イタリア観光映画では今でも色褪せない。アメリカ人がまだヨーロッパ文化に憧れていた時代でお上りさん丸出しのキャサリン・ヘップバーンが面白い。ヴェネツィアが美しくて気持ちがいい。昔見たけど、フィルムは悪いけど当時のフィルムで見る楽しさもある。フィルムセンターはこの後、小津のデジタル修復映画をやるので、見直したらまとめて書きたいと思う。今日は「彼岸花」。

2月4日(火) 
 新文芸坐でチャップリン特集をやっているので、この機会に見直してみようかなと思った。3日に「黄金狂時代」と「殺人狂時代」を見た。チャップリンは確か73年に大規模な回顧上映が行われ、その後にかなり見ている。傑作には違いないけど、判っていてみればあまり新発見がない。再確認はあるけど。「黄金狂」は無声喜劇の最高峰とも言えようが、展開を知ってれば今さら感がある。「殺人狂」は僕は一番好きな作品で、ビターなテイストがいい。細部まで完成された傑作だけど、まあ新しく感じたことはあまりない。
 ということで、今日はシネマヴェーラ渋谷へ行き谷口千吉監督特集。「33号車応答なし」は1955年作の白黒警察ミステリーの大傑作。クリスマスの夜に東京を巡回するパトカーが出会う事件の数々。志村喬と池部良のコンビがいい。酔っ払いだのスピード違反だの産気づいたカップルだのを相手しているうちに、おりしも都下を脅かしている事件と思わぬ遭遇を…。サスペンスの素晴らしさ、夜のロケ、池部夫人の司葉子の魅力など見所が多い。金曜日にもう一回上映。併映の「国際秘密警察 絶体絶命」は都筑道夫原作のナンセンスミステリーの映画化。褪色がひどいが、話のバカバカしさはそれなりに楽しめる。新兵器のくだらなさは傑作。水野久美、真理アンヌもいい。

 31日に新宿武蔵野館で「鉄くず拾いの物語」を見た。「ノーマンズ・ランド」のダニノ・ダノヴィッチ監督作品。ロマ民族の妻が妊娠しているが、不調で病院に行く。手術が必要だけど、保険がないからカネがいると言われる。払わないと手術しないと宣言される。この夫婦が右往左往する過程を記録映画風に描く。ベルリン映画祭で受賞した貴重な作品だけど、この映画のカメラには参った。70分程だから、まあ我慢できたけど、手持ちカメラがずっと揺れるので見ていて疲れるのである。題材は重要な話なんだけど。ロマの人権協会みたいな組織が出てくるのが興味深い。
 1日の「エレニの帰郷」は別に書いたけど、その前にヒッチコックの「マーニー」を見た。64年作品でテレビでも見てない。「鳥」の主演ティッピ・ヘドレンが「ハリウッド・ビューティ」シリーズでリバイバルされている。この人の印象が薄いけど、ヒッチコックのセクハラに嫌になり、テレビ中心になったとか出てた。ブロンドが美しい端正な美人だけど、幼い時の心の傷が抑圧を生み、赤を見ると混乱するという俗流フロイディズムが昔のアメリカ映画風。ヒッチコック低迷期というのも当たっているか。
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