尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

失効免許の有効化が大事ー更新制「廃止」後の制度設計

2021年08月29日 20時40分41秒 |  〃 (教員免許更新制)
 1980年にあった袴田事件の最高裁判決を僕は傍聴していた。すでにその時には冤罪だという声があり、支援運動も行われていたのだが、マスコミには単に死刑が確定したと小さな報道があっただけだった。その頃はハンセン病に関するマスコミ報道もほぼない時代だった。なんでこんなことを書くかと言えば、僕は「教員免許更新制」の問題点を10年前から書き続けてきて、それがようやく「廃止」へ向けて動き始めた。だから良かったとは全く思わず、なんでもっと早く届かなかったのかいう思いが先に立つのである。

 まあ「アフガニスタンからの米軍撤退」のようなもんだと思っている。米軍が撤退すればタリバンが伸張するのは予想できる。だからタリバンがいずれ首都を制圧するのは想定内だろうが、こうも早く8月半ばに前政権が崩壊するのは予定外だったと思う。同じように「教員免許更新制」が教師のなり手不足をもたらし、免許取得を目指す大学生が減ることを予想しなかったはずがない。しかし、予想以上の少子化を受けて教育界の諸課題が噴出し、もはや「免許更新」などという愚策を維持する余裕もないんだろうと思う。

 さて、教員免許更新制の「発展的解消」とはどういうものになるのだろうか。「教育職にとってあるべき研修制度の設計」という意味では、もう僕が考える意味もないかと思う。それ以前に「なぜ更新制度がダメだったのか」を真剣に総括することが大切だと思う。朝日新聞の記事(8月24日付)にはある教員の声として「少し残念」という意見も紹介されている。講習の中には研究者の「学問への熱」にひかれるものもあったという。こういう意見を聞くことが時々あるが、正直言って困ったもんだと思う。

 どんな素晴らしい講習であっても、それを受講しないと「失職」してしまうという仕組みがあったから受講したはずである。つまり講習の成果とは「脅し」によって得られたものだ。そういう「体罰容認」的政策が許されるのか。顧問の「体罰」が怖くて続けているうちに「面白さ」に目覚めたりするだろうか。あったとしてもごくわずかで、ほとんどはトラウマになるだろう。そもそも方法論として間違っているのである。

 教師は大人だから自分の生活を守る必要もあるし、教師としてどうしても身に付けておくべき知識やスキルもある。教員全員にとって必須の部分は、全員対象の強制的な研修も必要だろう。しかし「アクティブラーニング」を担うべき教師は、自分でも「自ら学ぶ」仕組みで力を付ける必要がある。そのことは前にも書いたので、ここでは繰り返さない。「より良い教員研修をデザインする①ー「ポイント制」」、「「常識研修」のススメーより良い教員研修をデザインする②」を参照。「更新制」だけでなく「10年研修」のように、ある年に集中する仕組みは変えないといけない。学級担任や校務分掌を決めるときに、講習や研修が影響するのは本末転倒だ。

 最大の問題は、すでに失効してしまった免許の扱いをどうするかだろう。多くの教員が自費で講習を受けてきたわけだから、この間に失効してしまった免許を復活させるのは「不平等」だという意見が一部で見られる。しかし、それはおかしいと思う。「更新制度」そのものがあってはならない制度だったのだから、この間に失効扱いになった教員免許も一括して有効とみなす方が自然だ。(もちろん免許法に規定された取り消し事由、刑事裁判で禁錮以上の刑が確定した場合などがある場合は別である。)

 それに「不平等」と言えば、この問題で最大の不平等はある年齢以上の教員が、この制度の対象外になってきたことだろう。実を言えば、僕より1歳以上年長の教員がそうなんだけど、その年代の人は何の講習を受ける必要もなく、そのまま教員免許が永遠に有効なのである。それ以下の教員は、55歳で教員免許を10年更新したとしても、65歳で切れてしまう。現時点では65歳が公務員としての再雇用の上限だが、非常勤講師として勤めることは可能である。でも65歳で再び更新講習を受ける人はごく少数だろう。何歳まで勤務出来るか判らないのに、わざわざ免許を更新する人がどれだけいるだろうか。ということで、もっと年長の教員が「永久免許」で講師をしているのに、それが出来ない年代の教員がいるのである。

 それに今は教員採用試験の受験可能年齢が高くなっている。10年以上前に教員免許を取って以後、民間で働く、外国へ行く、育児をしていたなどで「ペーパー・ティーチャー」になっている人はものすごく沢山いるはずだ。ある程度の経験をしてから教師になりたいという人もいる。(音楽や体育などでプロを目指していたが、30代半ばになって教師に目標を変えた。親の介護のため故郷に帰ることにしたが、民間企業が少ないので昔取った教員免許を生かしたいと思ったなど。)そういう人には、どんどん受けてもらえばいいじゃないかと思う。めでた合格してく正式に採用されたら初任者研修が必須なんだから、ゴチャゴチャ言う必要はない。

 非常勤講師産育休代替教員なんかの場合も同様である。今までそういう教員向けの研修制度なんて、どこでもやってないだろう。持っている教員免許を全部有効に戻さない限り、急に病休教員が出た場合の代わりが見つからない。現場では誰でも判っていることだろう。自分は講習を「免除」されている校長や副校長(教頭)が、結局は講師が見つからなくて一番苦労するんだから、きちんと現場から声を挙げる責任がある。他にも「うっかり失効」した教員の被害救済も大切。本来なら様々な違いを超えて共闘出来たはずだと思うが、教員組合も力にならなかった。言いたいことはキリが無いので、この辺で。
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