尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『恋する女たち』(大森一樹監督、1986年)の面白さ

2023年03月05日 22時43分36秒 |  〃  (旧作日本映画)
 氷室冴子原作、大森一樹監督の『恋する女たち』(1986)という映画が好きで、その面白さの理由を自分でもよく表現できないので、書いてみることにした。現在、神保町シアターで「アイドル映画と作家主義ー80年代アイドル映画白書」という特集上映で大林宣彦監督の『時をかける少女』『さびしんぼう』などとともにこの映画も上映されている。80年代は仕事が忙しくて公開時は見逃したのだが、10年ぐらい前に初めて見たらとても面白かった。今回が3回目で、何回見ても面白い。

 主演は当時歌やコマーシャルで人気だった斉藤由貴で、前年の1985年末に相米慎二監督『雪の断章ー情熱ー』に主演していて、この『恋する女たち』が2度目の主演になる。斉藤由貴は日本映画アカデミー賞主演女優賞を受賞するなど好評で、続いて『トットチャンネル』『「さよなら」の女たち』と大森監督の斉藤由貴三部作が作られた。1986年のキネマ旬報ベストテン7位に入っていて、これは大森監督にとって代表作『ヒポクラテスたち』とともにただ2作だけの入選になっている。

 原作は当時集英社コバルトシリーズで、絶大な人気を誇っていた氷室冴子。80年代に「ラノベ」の「少女小説」を確立させた作家で、当時女子中高生などに人気があった。その後、平安時代を舞台にした「なんて素敵にジャパネスク」で知られたが、2008年に51歳で亡くなっている。原作の舞台は北海道だというが、映画はそれを金沢に移して魅力的なロケをしている。兼六園などの名所ではなく、何気ない川沿いの道や野球場、美術館なんかが素晴らしい。金沢を舞台にした映画の中でも一番魅力的だと思う。

 この金沢の魅力も成功の大きな理由になっているが、それより出て来る高校生役の俳優が生き生きと演じているのが一番だろう。原作と主演女優が決まっていた「アイドル映画」だが、監督の人選が難航していたという。大森監督は当時『ゴジラvsビオランテ』(1989)の脚本が行き詰まっていて、こっちを先に受けることになった。大森監督は直前に吉川晃司三部作(『すかんぴんウォーク』『ユー・ガッタ・チャンス』『テイク・イット・イージー』)を撮り終わったところで、男優と女優は違ってもアイドル映画の作法は熟知していだろう。実際、流れるように物語が進行する見事な語り口に乗せられて見終わる。

 冒頭で黒服を着た女子高生3人が葬式写真を持っているから、何だろうと思う。しかし、それは江波緑子高井麻巳子)がなんかショックなことがあると、自分の死亡通知を他の二人に送ってよこし、皆で「葬儀」を執り行うものだった。すでに3回目で、白い十字架を地面に差している。このアホらしい自意識過剰の少女趣味に付き合っているのが、吉岡多佳子斉藤由貴)と志摩汀子相楽ハル子)で、映画はこの3人の恋模様の推移を描いていく。高校生なんだから勉強もあるわけだし、部活や進路はどうしたと思う。でも親や教師はほぼ出て来なくて、一般のクラスメートも出てこない。このおとぎ話的設定こそ成功の最大要因だ。
(ラストシーン。左から高井、相楽、斉藤)
 ちなみに、高井麻巳子は「おニャン子クラブ」のアイドルで、その後秋元康と結婚して芸能界は引退している。相楽ハル(晴)子はテレビドラマに出ていて、これが映画初出演。後に阪本順治監督デビューの『どついたるねん』で高く評価されキネ旬助演女優賞を受けた。現在はアメリカ人と結婚してハワイ在住だという。3人とも超絶的美少女ではなく、斉藤由貴もふて腐れ顔なども多くてコメディエンヌとして評価された。この絶妙なアンサンブルが魅力的なのである。

 たかが女子高生が「恋する女たち」なんておかしいけど、緑子、汀子のお相手は年上の設定になっている。普通に同級生に憧れているのは多佳子だけで、若き日の柳葉敏郎演じる野球部員沓掛勝にお熱。柳葉はすでに25歳で高校生役は少しキツいが、一生懸命野球をしていて、いかにも若い。しかし、彼には中学時代からの恋人がいて、他校生ながら試合に応援に来ている。美術館や映画館前でなぜか沓掛と出会ってしまうのに、多佳子の気持ちは全然気付いて貰えない。逆に下級生の神崎基志菅原薫)に見つめられ告白されてしまう。中学時代に姉の比呂子原田喜和子)が家庭教師をしていて、姉への憧れが妹を発見させたらしい。菅原薫は菅原文太の長男だが、小田急線電車にはねられて31歳で亡くなった。
(柳葉敏郎と斉藤由貴)
 傑作なのは美術部の大江絹子で、勉強をサボったため留年した設定。演じているのは小林聡美で、例によって怪演している。斉藤由貴はまだセリフ回しがキツい感じがあるが、比べると小林聡美の演技は圧倒的にうまいと思う。でも多佳子が絹子に圧倒されるという設定のシーンだから気にならない。お互い授業をサボったり、好き勝手にやってるところが面白い。絹子は絵ばかり描いている生徒だが、多佳子がお気に入りで今度ヌードを描かせろなんて迫っている。この小林聡美が出ていることで、映画はピリッとしまっている。やはり脇役こそ重要だと思う。
(小林聡美と斉藤由貴)
 多佳子、比呂子姉妹は温泉宿の娘で、親が観光協会長をしているから観光協会の2階に住めるという。学校に行くために二人暮らしをしているという都合のいい設定である。二人の親がやってるという「辰口温泉まつさき」は実在の宿で、映画では斉藤由貴が掛け流しの風呂に入っている。比呂子は大学卒業後は家に帰って女将を継ぐという約束を守って、見合いをするという。しかし、実は…という展開がある。年上には年上の事情があり、やはり高校生は高校生同士で海辺で野点をするというラスト。このラストが実に美しくて魅惑的。ドローンを使ったかのような空中撮影が見事だ。

 結局何が面白いのかなと思うと、巧みな脚本と演出でジャンル映画としての高い完成度を見せていることだなと思った。野村孝監督『拳銃(コルト)は俺のパスポート』や加藤泰監督『明治侠客伝 三代目襲名』などを何度見ても面白く見られるのと同じではないか。どういうジャンルかと言えば、『少女アイドル映画』ということだが、全体にあるガーリーな趣味がうまく生きている。自分と違う世界であっても、ジャンル映画は完成度次第で面白く楽しめるわけである。
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