温泉の話は基本的には「こんな素晴らしい温泉を知ってますか」という趣旨になるが、温泉宿もどんどん無くなってしまうのである。栃木県の鬼怒川温泉など、車窓沿いに見える廃墟ホテルの現状はすさまじいばかり。ここは東京に近く、大規模旅館が立ち並ぶ団体旅行のメッカだった。僕も職員旅行で行ったことがあるし、昔の映画にもよく出てくる。バブル期に増築してバブル崩壊で破綻したんだろう。温泉街を散歩してると、あまりにも閉館してるところが多く驚いてしまう。まあ、それでもまだまだいっぱい旅館がある大温泉だけど。
直接の理由は知らないけれど、鹿児島県の桜島にある古里温泉の古里観光ホテルが2012年に自己破産した。ネット情報によると解体されたという。ここは林芙美子の出身地で碑が立っている。「古里温泉」という名前も床しいが、古里観光ホテルには有名な「龍神露天風呂」があった。海を見晴らす大きな風呂に、男女ともに白い装束をまとって入浴する。「混浴」だが、海辺の景色が素晴らしく宗教的なムードもある。温泉で炊いた龍神釜飯も名物だった。日本のベスト級露天風呂だったので、無くなったのは本当に残念だ。
(龍神露天風呂)
やはりつぶれてしまったのが秋田県・秋の宮温泉郷の稲住温泉。と思ったら、今回検索したら「ラビスタ」ホテルなどを全国展開する共立グループによって営業が再開された。秋の宮温泉郷といっても知名度が低いが、秋田県南東部、宮城県近くに多くの温泉が集中している。稲住温泉は落ち着いた一軒宿で、広大な庭が見事な大きな宿。夏休みなのに客が少なく心配してたら案の定10年ぐらいして倒産した。武者小路実篤が戦時中に疎開していた宿で、有名な建築家白井晟一が設計した離れがある。文化的な価値が高かったので再開されて良かった。
(稲住温泉)(白井晟一設計の離れ)
大型旅館では「バブル崩壊」型が多かったけど、最近は小さな宿で「人手不足」型も多くなっているらしい。「秘湯」系の宿は家族経営が多く、後継者難や家族の病気、介護で人手が取られると働き手を見つけにくい。土日が仕事で平日はヒマ、朝と夜に仕事で昼間がヒマと通常と違う働き方になるので、求人を出してもなかなか応募がない。そんな理由で閉めてしまう宿がある。風呂や寝具の管理を行いながら、美味しい夕食と朝食を準備するという「完結型」の宿に無理が出て来ているんだと思う。
閉めたわけではないが、宿泊の受付を中止して「日帰り温泉」だけにする宿もある。最近は山梨県南アルプス市にある秘湯、奈良田温泉白根館が日帰りになってしまった。慶雲館という「世界最古の宿」ギネス認定をうたう有名な旅館がある西山温泉を通り過ぎ、ひたすら南アルプスの麓を目指して奥へ奥へと車を走らせる。ドライブも飽きた頃にようやく着くのが奈良田温泉だが、一浴体にまとわりつく素晴らしいアルカリ泉に疲れが飛んでしまう。夕食も工夫された素晴らしい宿だったが、もう泊まれないのかと思うと残念だ。
(奈良田温泉白根館)
他にも良い宿だったのに無くなってしまった宿、一度泊まりたかったのに閉館した宿は幾つもある。群馬県水上温泉の最奥にあった湯ノ小屋温泉の「廃校の宿 葉留日野山荘」もその一つ。廃校になった小学校を宿泊施設に改造し、温泉施設は別棟を作った。確か地酒セットを飲んで美味しかった。憲法擁護の署名用紙が置いてあるようなとこで(別にただ置いてあるだけど)、風変わりではあった。布川事件冤罪被害者の桜井昌司さんがひいきにしていて、そのブログで閉館を知った。また行こうかと電話したら通じなかったとか。僕ももう一回行きたい秘湯だった。
(葉留日野山荘)
全部挙げていっても仕方ないので、最後に一番不思議だった温泉宿。それは鳴子温泉郷の奥、中山平温泉の「元蛇之湯」。ガイドに出ていて、何となく気が惹かれて電話で予約した時には、どんな宿だか知らなかった。普通だったら夕食は6時とか6時半である。だから4時過ぎに着いて、ノンビリ一風呂浴びて夕食だということになる。それがその「元蛇之湯」は女将が夕方5時には食事だと言う。何でも体のリズムから5時がいいのだそうで、食材も自然食を心がける療養向きの温泉なんだという。何でも「自然食」とか「整体」とか言うのも、僕もそれ自体には関心があるけれど、客に強いるのはどうなんだろうか。
(元蛇之湯)
料理は美味しかったし、お湯も素晴らしかった。(大風呂と別に、水着で入る男女混浴のスパ施設があったが、5時までだからゆっくり利用できなかったが。)近くにある「うなぎ湯の宿」が有名で、元蛇はそこまでではなかったが泉質は素晴らしかった。翌朝、6時には体内リズムを整えるために起床の放送が入る。朝は女将を中心に太極拳がある。そういう人は時々いるが、旅館の女将にはどうなんだろうと帰りに夫婦で話したが、お湯は良かったのでまた来てもいいかな認定をした。でも数年後にネットを見たら宿は無かった。またしばらくして近くに行ったときに探したら、どこかの企業の施設になったみたいだった。今はまた変わったかもしれない。
経営上の理由で辞める旅館が多い中、こんな宿もあるという情報だけ。秘湯ファンには大露天風呂が知られていた、湯ノ倉温泉というところが宮城県北部にあった。湯栄館という一軒宿で、一度は行ってみたいと思っていた。しかし、2008年6月に起きた「岩手・宮城内陸地震」で川がせき止められ水没してしまった。温泉そのものが自然現象で無くなってしまったのである。旅館は廃業して、もう二度と行くことの出来ない宿である。
直接の理由は知らないけれど、鹿児島県の桜島にある古里温泉の古里観光ホテルが2012年に自己破産した。ネット情報によると解体されたという。ここは林芙美子の出身地で碑が立っている。「古里温泉」という名前も床しいが、古里観光ホテルには有名な「龍神露天風呂」があった。海を見晴らす大きな風呂に、男女ともに白い装束をまとって入浴する。「混浴」だが、海辺の景色が素晴らしく宗教的なムードもある。温泉で炊いた龍神釜飯も名物だった。日本のベスト級露天風呂だったので、無くなったのは本当に残念だ。
(龍神露天風呂)
やはりつぶれてしまったのが秋田県・秋の宮温泉郷の稲住温泉。と思ったら、今回検索したら「ラビスタ」ホテルなどを全国展開する共立グループによって営業が再開された。秋の宮温泉郷といっても知名度が低いが、秋田県南東部、宮城県近くに多くの温泉が集中している。稲住温泉は落ち着いた一軒宿で、広大な庭が見事な大きな宿。夏休みなのに客が少なく心配してたら案の定10年ぐらいして倒産した。武者小路実篤が戦時中に疎開していた宿で、有名な建築家白井晟一が設計した離れがある。文化的な価値が高かったので再開されて良かった。
(稲住温泉)(白井晟一設計の離れ)
大型旅館では「バブル崩壊」型が多かったけど、最近は小さな宿で「人手不足」型も多くなっているらしい。「秘湯」系の宿は家族経営が多く、後継者難や家族の病気、介護で人手が取られると働き手を見つけにくい。土日が仕事で平日はヒマ、朝と夜に仕事で昼間がヒマと通常と違う働き方になるので、求人を出してもなかなか応募がない。そんな理由で閉めてしまう宿がある。風呂や寝具の管理を行いながら、美味しい夕食と朝食を準備するという「完結型」の宿に無理が出て来ているんだと思う。
閉めたわけではないが、宿泊の受付を中止して「日帰り温泉」だけにする宿もある。最近は山梨県南アルプス市にある秘湯、奈良田温泉白根館が日帰りになってしまった。慶雲館という「世界最古の宿」ギネス認定をうたう有名な旅館がある西山温泉を通り過ぎ、ひたすら南アルプスの麓を目指して奥へ奥へと車を走らせる。ドライブも飽きた頃にようやく着くのが奈良田温泉だが、一浴体にまとわりつく素晴らしいアルカリ泉に疲れが飛んでしまう。夕食も工夫された素晴らしい宿だったが、もう泊まれないのかと思うと残念だ。
(奈良田温泉白根館)
他にも良い宿だったのに無くなってしまった宿、一度泊まりたかったのに閉館した宿は幾つもある。群馬県水上温泉の最奥にあった湯ノ小屋温泉の「廃校の宿 葉留日野山荘」もその一つ。廃校になった小学校を宿泊施設に改造し、温泉施設は別棟を作った。確か地酒セットを飲んで美味しかった。憲法擁護の署名用紙が置いてあるようなとこで(別にただ置いてあるだけど)、風変わりではあった。布川事件冤罪被害者の桜井昌司さんがひいきにしていて、そのブログで閉館を知った。また行こうかと電話したら通じなかったとか。僕ももう一回行きたい秘湯だった。
(葉留日野山荘)
全部挙げていっても仕方ないので、最後に一番不思議だった温泉宿。それは鳴子温泉郷の奥、中山平温泉の「元蛇之湯」。ガイドに出ていて、何となく気が惹かれて電話で予約した時には、どんな宿だか知らなかった。普通だったら夕食は6時とか6時半である。だから4時過ぎに着いて、ノンビリ一風呂浴びて夕食だということになる。それがその「元蛇之湯」は女将が夕方5時には食事だと言う。何でも体のリズムから5時がいいのだそうで、食材も自然食を心がける療養向きの温泉なんだという。何でも「自然食」とか「整体」とか言うのも、僕もそれ自体には関心があるけれど、客に強いるのはどうなんだろうか。
(元蛇之湯)
料理は美味しかったし、お湯も素晴らしかった。(大風呂と別に、水着で入る男女混浴のスパ施設があったが、5時までだからゆっくり利用できなかったが。)近くにある「うなぎ湯の宿」が有名で、元蛇はそこまでではなかったが泉質は素晴らしかった。翌朝、6時には体内リズムを整えるために起床の放送が入る。朝は女将を中心に太極拳がある。そういう人は時々いるが、旅館の女将にはどうなんだろうと帰りに夫婦で話したが、お湯は良かったのでまた来てもいいかな認定をした。でも数年後にネットを見たら宿は無かった。またしばらくして近くに行ったときに探したら、どこかの企業の施設になったみたいだった。今はまた変わったかもしれない。
経営上の理由で辞める旅館が多い中、こんな宿もあるという情報だけ。秘湯ファンには大露天風呂が知られていた、湯ノ倉温泉というところが宮城県北部にあった。湯栄館という一軒宿で、一度は行ってみたいと思っていた。しかし、2008年6月に起きた「岩手・宮城内陸地震」で川がせき止められ水没してしまった。温泉そのものが自然現象で無くなってしまったのである。旅館は廃業して、もう二度と行くことの出来ない宿である。