尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

根本がおかしい「ふるさと納税」

2018年10月10日 23時17分06秒 | 政治
 「ふるさと納税」という制度がある。僕はこの仕組みが根本的におかしいと思っていて、いつかちゃんと書きたいと思っていた。最近は映画や本の感想が多かったけど、そろそろ硬い問題を書きたいなと思って、まずは「ふるさと納税」から。一応解説をしておくと、「納税」というけど「寄付」である。しかし、普通の寄付金減税と違って「ふるさと納税」は2千円を除いて所得税や住民税(翌年課税分)が減額される。「返礼品」が高額な場合、かえってもうけになってしまう。近年はその「返礼品」が高額になり、競争にようになって「官製通販」などと言われていた。

 利用者は2015年に100万人、16年には250万人を超え、寄付金額は15年に1千億、16年には2500億円を超え、2017年は3600億円にもなった。2015年から激増したのは「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が作られたからである。それまでは確定申告が必要だったが、自治体に申請書を提出するだけでよくなったのである。その場合住民税だけが減額される。そこで都市部の自治体では「住民税が流出する」という悲鳴も上がるようになった。東京都杉並区では昨年度は13億9千万、今年度予測では18億7千万が流出するとしてポスターも作っている。

 担当の総務省では、9月11日に「高額返礼品は法で規制する」という方針を打ち出した。今までも「3割を超えないように」と通知していたが、守らない自治体もあるとして、法律で「地場産品に限る、3割以内」と決めるという。この「ふるさと納税」制度は、2007年5月に第一次安倍政権の菅義偉総務相が創設を表明した。つまり現在の菅官房長官の「功績」になっているので、今の時点で制度そのものの廃止は考えられないのである。だから返礼品規制などについてあれこれ言う人はたくさんいるが、制度そのものを論じなくなっている。

 北海道の厚真町では地震で大きな被害を受けた。その後「ふるさと納税」が激増し2億円を超えたという。返礼品もないという。そんなケースをどう考えるべきか。そういう仕組みはあってもいいんじゃないかと思う人が多いと思う。でも僕は違うと思う。「ふるさと納税」システムを利用する限り、現在居住している自治体の住民税が減額される。何の見返りも求めず、ただ厚真町を金銭的に支援したいと思うなら、普通に寄付金を送ればいいんじゃないだろうか。しかし、自治体に寄付金を送っても減税されない。関連のNPOなどに寄付しても確定申告をしないと減税にならない。

 「ふるさと納税」という仕組みがある限り、簡単に支援できるシステムを多くの人が利用するだろう。それを責めることはもちろんできない。でも、その分地元の自治体に「被害」を与えてしまう。だから、地元の学校に子どもを入れていたり、地元の福祉制度を利用しているような人は「ふるさと納税」を利用しないのではないだろうか。地震や豪雨などの災害支援のための募金はいくつもある。そういう時に募金すればいいわけで、何も「ふるさと納税」にしなくてもいいだろう。

 納税は国民の義務である。(憲法に書いてある。)国税もそうだけど、地方税も同じだ。税金によって国や地方の様々な仕組みが運営されている。超富裕層になれば、もう国家に対する帰属意識も少なくなり、資産は海外に移しているかもしれない。しかし、そこまではいかない「富裕層」は国家に対する帰属意識は持っていても、住んでいる自治体にはあまり帰属感がないと思う。地方ならともかく、都市の高層マンションに住んでるような人は「たまたまそこに建っていた」から買っただけで、地元との交流もない場合が多い。子どもは私立に通い、親も高い老人福祉施設を買える。地元自治体の教育、医療、福祉などを支える意識が乏しくなっても当然だ。

 一方、貧困層はもともと住民税が課税されないか、税額も少ない。わざわざ「ふるさと納税」を利用する意味がない。だから「ふるさと納税」を利用しているのは、おおよそのところ「富裕層」なんじゃないかと思う。つまり「都市の自治体の住民税を都市の富裕層に移転する」のが「ふるさと納税」である。よく保守系政治家は「権利ばかり主張して義務を果たさない」などと「戦後社会」を批判する人がいる。しかし、不思議なことに高額所得者の所得税はどんどん減額されてきた。今度は住民税も大幅に減額される仕組みを作った。おかしいのではないだろうか。自民党政権では「富裕層」は国民の義務を果たさなくてもいいのである。

 しかし、生まれ育った地域を支援したいと考える人がいるのは当然だろう。地方の特産品を大いに盛り上げるのもいいと思う。じゃあ、どうすればいいのか? 「地方創生」が国の目標だというんだったら、所得税を減額するだけでいいのである。本当はすべての人が確定申告するべきなんだろうが、住民税はできているんだから「簡単に所得税を減額する仕組み」もできないはずがない。「ふるさと納税」は寄付金の使い道を特定できることがある。しかし、本来は国税でこそ使い道を決めさせて欲しいところだ。「イージスアショア」とか「原発推進」じゃなくて、自分で望む政策を指定して国税を払える制度こそ必要なんじゃないだろうか。
コメント (2)
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