尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

アニエス・ヴァルダ「顔たち、ところどころ」

2018年10月04日 23時07分54秒 |  〃  (新作外国映画)
 沖縄知事選のデータ分析を書くつもりだったが、時間がかかりそうだから今日見た映画の話。是枝裕和監督の映画上映シリーズをずっと見てたんだけど、3日連続で2本立てを見たら疲れてしまった。そこでアニエス・ヴァルダの「顔たち、ところどころ」というフシギに面白いドキュメンタリーを見に行った。近々上映も終わりそうだが、すごく魅力的で心が解放されるような映画だった。

 アニエス・ヴァルダ(Agnès Varda、1928.5.30~)は、今では「ヌーヴェルヴァーグの祖母」なんて言われるフランスの女性監督である。「シェルブールの雨傘」などを作ったジャック・ドゥミと結婚していたが、夫の死後もずいぶん映画を作っている。最近は劇映画じゃなくて、自由なタッチのエッセイのような映画を作っている。今度の映画は中でも変わっていて、アーティストの「JR」という人物と一緒にフランス各地を周っていく。年の差54歳のアート旅である。

 JRという人を映画の解説で見ると、「10代の頃からグラフィティ・ペインティングをはじめ、17歳のときにパリの地下鉄で拾ったカメラで自分と仲間たちの写真を撮って街の壁に貼り付けるになる。自らを「photograffeur=フォトグラファー+グラフィティ・アーティスト」と称し、いまや世界で最も注目されるアーティストの一人となった気鋭のアーティスト」だそうである。「写真スタジオ搭載トラック」に乗って旅して、会った人の写真を撮る。それを拡大して印刷し、外壁に貼っていく。

 日本だったら、景観保護だの個人情報だのうるさいことになりそうだけど、なんかフランス人は鷹揚。大きな顔が貼り出されても、誇りに思ってる。もっともそういう人だけ出ているんだろうけど。フランスの田舎道が魅力的で、北の方にも南の方にも出かける。炭鉱町、農村、海辺、港では港湾労働者たちと会って、男の労働者じゃなくて妻の写真を撮る。この奥さんたちもすごい人ばかり。カルティエ=ブレッソンの墓に参ったり、途中で衝突もあるけど、アート珍道中が続く。

 JRはずっと黒メガネをしてるけど、そうなるとアニエス・ヴァルダが思い出すのはジャン=リュック・ゴダール。ゴダールの「はなればなれに」のパロディで、車いすに乗ったヴァルダをルーブル美術館で押してゆく楽しいシーンもある。昔ゴダールが黒メガネを外したシーンを撮影したヴァルダは、しばらく会ってないゴダールに会いに行こうという。そしてJRの黒メガネも外した顔も一度取りたいという。さて、ゴダールとは会えるか?JRの素顔は?

 軽いタッチだけど、なんか滋味がある。そんな映画。アニエス・ヴァルダは映画史上最高の女性監督だろう。最近デジタル版が再公開されたが、最高傑作「幸福」の素晴らしい恐ろしさは今も鋭かった。「5時から7時までのクレオ」(1961)も何度見ても新鮮だ。「歌う女・歌わない女」(1977)や「冬の旅」(1985)は公開以来見てないけど、すごい映画だった。こういう年齢の老い方は素晴らしいなと思える映画。そしてやっぱりフランス映画の魅力。
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