波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋    第77回

2009-03-23 10:17:34 | Weblog
加代子の話は続いた。「中山さん、お通夜の夜、みんなが集まった時、いろいろな話が出たの。みんなが言うのは和夫は仕事中に死んだのだ。この事は大事なことで会社も何らかの事を考えているのだと思うけど、どうなのか」「それで、会社からは何か言ってきたの。」「それが今のところ、何もないのよ。」「そう。そのうち何か挨拶があるのかもしれないね。」「それで、皆さんは具体的にはどんなことを言ってるの。」「難しいことは分らないんだけど、法律に労働災害補償保険法と言うのがあって、その第一条、第二条に業務上の事由、または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため必要な保険給付を行うほか、社会復帰促進事業を行うことが出来る。と言う法律があるんですって。
それによると、遺族補償年金を労働者の家族が受け取る事ができるようになることも書いてあるらしいの。」「労災のことは知ってるけど、それをどうするって言ってるの。」「つまり、手続きをして、お金がもらえるようにしてもらいなさいっていうことらしいんだけど、どうしたらいいのか、分らないし、」「そうか、それは一度、良く調べてみてもいいね。私が調べてみるよ。それから又相談しましょう。」中山は、加代子を慰め焼香を済ませると帰途に着いた。
確かに、松山の死は仕事中であることは間違いない。しかし、果たしてこのことを会社はどのように取り扱おうとしているのか。どうしようとしているのか。そのことを調べるすべは無かった。そして、家族のために何が出来るのか、とりあえず、社会保険事務所での調べは出来るとしても、これを具体的に進めるのにどうしたらよいのか、見当もつかなかった。
数日後、中山は地元の社会保険事務所へ行き、松山の様子を話し、この場合、労災に該当するのか、そして、手続きとしてどうするかを聞いてみた。結論から言えば当然ながら、会社側からの手続きによって、なされるわけで当該者に遺族で出来ることではなかった。だとすれば会社が自発的に手続きを起こさない限りこの保険法の該当の給付金は受けることが出来ないことになる。こちらとしてはどうすることも出来ないのである。考えられることは会社へお願いをして、その手続きをしてもらうことであるが、そのお願いをするのにはどうすればよいか。中山は其処まで考えて、はたと考え込んでしまった。
「どうすればいいんだろう、会社が自主的にやってくれれば良いけど、何もしてくれなければ、このままだな。」