波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

   音楽スタジオウーソーズ   第29回 

2014-12-22 15:51:39 | Weblog
子供から大人まで小鳥の好きな人は多数いる。私もかつて孫にせがまれて「いんこ」を何回か買ったことがあるが、人気があるのはカナリヤかもしれない。然し中でも高尚で価値のある小鳥は「うぐいす」であろう。昔はえさも今のように出来合いではなく、手作りで「すり餌」を工夫して作り与えたものである。手がかかるほど高級感を味わえるしそれだけ愛着もわくというものであった。ばあさんはそんな爺さんを温かい眼で見ていたし、そのために使うお小遣いを喜んで出していた。鶯は春になると見事な声で「ほーほけきょ」と鳴き、それは爺さんへの挨拶であり、お礼だったのかもしれない。そんな鳥かごを見ながら中々本題に入らないで持ち上げている町会長をばあさんは横目で見ながら「早く本題に入ればいいのに」といらいらしていた。
「井やおいしいお茶をご馳走様でした。ところで町会のほうも相変わらず忙しくて、今度も改選期になり、早く若い人に変わってもらえればと願っているのだが、このごろの若い衆は忙しくそれどころじゃないらしく年寄りがこうしていつまでも世話をしなければならないのだが、お宅の奥さんにもう一期お手伝い願いたいのだが、」と切り出した。
律儀な爺さんはその話を聞くと「そんなに丁寧に会長さんに頭下げられたんじゃあとてもお断りするわけには行きません。うちのばあさんでお役に立つなら」と簡単に承諾してしまった。会長も中々心得たもので頭を下げることを良く知っていたのである。
本当は問題の外処を調整しての宥め役ともいえなかったが、これでもう一期は安泰だと
してほっとしながら帰っていった。
そんなことがあったとは露しらず外処はいつもどおりの行動であった。
ある日町会事務所に電話が入った。一人暮らしの老人が近所の人の話で不在であることが分かった。そしてその当人がどこへ行ったか不明で分からないと言う知らせであった。
民生委員をかねているばあさんが訪ねてみると、家の中は何もなくなったものはなく、ただ当人だけがいなくなっていた。
一応その家族関係や身元については聞いていた範囲で分かっていた。彼は田舎が豊橋だと言うことも聞いていたが、それを聞くと外処はばあさんに「これは田舎へ行って実家で何か聞きださないと分からないぞ」と早速動き出したのである。いつもパターンだった。