波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

オヨナさんと私    第75回

2010-03-15 08:03:14 | Weblog
話を聞きながら、男である自分では理解できない女心を如何考えるか悩んでいた。再婚で子供をつれて再婚したのに、その夫に身体を許す事が出来ないとはどういうことなのだろうか。まして妊娠して、それでも悪いと思ったのかその子をおろしている。男はそれでもこどもがかわいい、そして家庭を壊したくないとも思っている。しかしこのままでは自分の気持ちが治まらない。それは愛情なのか、どうかも分らない。何とか自分を納得させたい。
「話は分りました。でも奥さんの気持ちは私にも分りません。事実だとすれば面と向かって
話し合うべきだと思いますが、解決にはならないでしょう。不貞行為が事実なら離婚は可能だし、慰謝料も取れるでしょう。でも別れた後で、あなたが納得できますか。後悔するようなことはありませんか。すべてはあなたが自分で決断しなければなりません。私もこうしなさいということは残念ながら言えません。」男はヨナさんの話を聞きながら頷いていたがとても淋しそうであった。「分りました。良く考えて見ます。」「もうお店に行くのは止めなさいね。家で待っててあげてください。きっと帰ってきますよ。」男は去って行った。
ヨナさんは見送りながら、何時かもう一度、幸せな家庭が戻ることを祈るしかなかった。
穏やかで、静かな日が戻ってきた。ヨナさんはいつものように子供との時間を過ごしながら
近くを散歩してスケッチを楽しでいた。ある日、一人の若者が訪ねてきた。もう忘れかけていたが、その若者が中学生の頃、教えた子であった。「やあ、暫く、大きくなったなあ。確か所、ちかひろ君だよね。」
「先生、ご無沙汰しています。お変わりありませんか。」とすっかり一人前の大人のような挨拶をする。「如何した風の吹き回しだい。」「いや、大学も無事卒業できて、就職もやっと決まったので、お世話になった方に挨拶をして廻っているんですよ。これから忙しくなるんで。」「そりゃあ、わざわざありがとう。良かったら少し休んでいけよ。」「ありがとうございます。いやあ、ちっとも変わりませんね。あの頃と全く同じだなあ。僕もここで随分遊ばしてもらいました。全部覚えていますよ。」思いがけない教え子の来訪はヨナさんを
すっかり和ませていた。こんな時間を持つようになるとは少しも考えていなかったし、自分がそんな歳になりつつあるのかも気がついていなかったからだ。もうそんな年になってきているんだ。