デジタル法案 監視国家と治安体制② 治安強化へ ひそむ策略
経済研究者 友寄英隆さんに聞く
菅義偉内閣の「デジタル庁設置法案」では、「第6条 デジタル庁の長は、内閣総理大臣とする」となっています。
つまり、デジタル庁は、単に一つの「庁」が増えるということではないのです。内閣総理大臣のもとにあらゆる情報の指揮権を集中して、国家が「最大のプラットフォーム」になるということです。行政のあり方、国家の基本的な構造にもかかわる問題です。
行政のデジタル化の法制化によって住民のマイナンバーやプロファイル(人物記録・履歴)などの個人情報が集積・流通する過程は、デジタル技術の「不可視性」のために、ブラックボックス化します。予算の計上や執行などの指揮命令権を持つデジタル庁の指揮のもとに国家に個人情報が集中すると、知らない間に国民の民主的な権利が踏みにじられ、自由を抑制する監視国家になる危険があります。
国家による監視
菅内閣の「デジタル社会形成基本法案」が示す基本理念には、「個人情報保護」の文言がありません。プライバシー権などの人権保障をないがしろにしたまま、個人データの利活用を推進する内容です。
日本の個人情報保護の現行法は、諸外国と比べても、きわめて不十分です。むしろ抜本的な改善・強化こそが求められます。例えば、個人情報保護委員会の権限を強化して、行政機関や警察機構などに対して厳しい監視を行えるようにすべきです。
現行の個人情報保護法では、民間事業者、行政機関、独立行政法人のそれぞれ別の3本の法律にして、個人情報を分散管理して、なるべく集約できないようにして保護を図ってきました。しかし、菅内閣は3法を統合して、関係機関が個人情報を容易に共有できるようにします。その結果、所得や資産、医療、教育など膨大なデータが政府に集中し、国家による個人情報の管理が進むことになります。
菅内閣は、デジタル改革の目標を「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」としていますが、これは、「監視の網の目から誰一人取り逃さない」ということでもあるのです。
日本では、安倍晋三前政権のもとで、反動的な治安立法が次々と強行されてきました。例えば、2013年の特定秘密保護法、15年の憲法違反の安保法制(戦争法)、17年の組織犯罪処罰法改正(共謀罪:現代版の治安維持法)などなど、いずれも国民の強い反対を押し切って成立しました。
菅内閣のデジタル改革は、デジタル技術そのもののもつ危険性と「新自由主義」という反民主主義的な政治・行政が結びつくことによって、こうした「治安体制」を情報体制の面から支える「監視国家」を実現するものでず。すでに、警察などへの「捜査照会」の名目で利用される懸念が指摘されています。
菅内閣のデジタル関連法案は、それ自体は治安立法ではありません。しかし、個人情報を国家が一元管理して、マイナンバー機能と一体化すれば、「治安体制」にとって不可欠な「国民監視」の技術的基盤となります。
デジタル関連法案を通すなと抗議行動する人たち=4月6日、衆院第2議員会館前
コロナ禍に乗じ
コロナ禍を利用した新たな「治安体制」強化の策略にも警戒が必要です。
すでに、昨年4月、最初のコロナ対策の「緊急事態宣言」を発令するさいの国会での質疑の中で、安倍首相(当時)は、「今般の新型ウイルス感染症への対応を踏まえつつ」、「(憲法改正において緊急事態条項を検討することは)極めて重く大切な課題」だ(20年4月7日、衆院議院運営委員会)と強調しました。
こうしたコロナ対策に乗じた「治安体制」強化の新たな策動をも念頭において、菅内閣のデジタル改革の危険性をしっかりとらえておくことが必要です。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年4月24日付掲載
菅内閣の「デジタル社会形成基本法案」が示す基本理念には、「個人情報保護」の文言がありません。プライバシー権などの人権保障をないがしろにしたまま、個人データの利活用を推進する内容。
所得や資産、医療、教育など膨大なデータが政府に集中し、国家による個人情報の管理。
菅内閣は、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」? これは「監視の網の目から誰一人取り逃さない」ということでも…。
経済研究者 友寄英隆さんに聞く
菅義偉内閣の「デジタル庁設置法案」では、「第6条 デジタル庁の長は、内閣総理大臣とする」となっています。
つまり、デジタル庁は、単に一つの「庁」が増えるということではないのです。内閣総理大臣のもとにあらゆる情報の指揮権を集中して、国家が「最大のプラットフォーム」になるということです。行政のあり方、国家の基本的な構造にもかかわる問題です。
行政のデジタル化の法制化によって住民のマイナンバーやプロファイル(人物記録・履歴)などの個人情報が集積・流通する過程は、デジタル技術の「不可視性」のために、ブラックボックス化します。予算の計上や執行などの指揮命令権を持つデジタル庁の指揮のもとに国家に個人情報が集中すると、知らない間に国民の民主的な権利が踏みにじられ、自由を抑制する監視国家になる危険があります。
国家による監視
菅内閣の「デジタル社会形成基本法案」が示す基本理念には、「個人情報保護」の文言がありません。プライバシー権などの人権保障をないがしろにしたまま、個人データの利活用を推進する内容です。
日本の個人情報保護の現行法は、諸外国と比べても、きわめて不十分です。むしろ抜本的な改善・強化こそが求められます。例えば、個人情報保護委員会の権限を強化して、行政機関や警察機構などに対して厳しい監視を行えるようにすべきです。
現行の個人情報保護法では、民間事業者、行政機関、独立行政法人のそれぞれ別の3本の法律にして、個人情報を分散管理して、なるべく集約できないようにして保護を図ってきました。しかし、菅内閣は3法を統合して、関係機関が個人情報を容易に共有できるようにします。その結果、所得や資産、医療、教育など膨大なデータが政府に集中し、国家による個人情報の管理が進むことになります。
菅内閣は、デジタル改革の目標を「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」としていますが、これは、「監視の網の目から誰一人取り逃さない」ということでもあるのです。
日本では、安倍晋三前政権のもとで、反動的な治安立法が次々と強行されてきました。例えば、2013年の特定秘密保護法、15年の憲法違反の安保法制(戦争法)、17年の組織犯罪処罰法改正(共謀罪:現代版の治安維持法)などなど、いずれも国民の強い反対を押し切って成立しました。
菅内閣のデジタル改革は、デジタル技術そのもののもつ危険性と「新自由主義」という反民主主義的な政治・行政が結びつくことによって、こうした「治安体制」を情報体制の面から支える「監視国家」を実現するものでず。すでに、警察などへの「捜査照会」の名目で利用される懸念が指摘されています。
菅内閣のデジタル関連法案は、それ自体は治安立法ではありません。しかし、個人情報を国家が一元管理して、マイナンバー機能と一体化すれば、「治安体制」にとって不可欠な「国民監視」の技術的基盤となります。
デジタル関連法案を通すなと抗議行動する人たち=4月6日、衆院第2議員会館前
コロナ禍に乗じ
コロナ禍を利用した新たな「治安体制」強化の策略にも警戒が必要です。
すでに、昨年4月、最初のコロナ対策の「緊急事態宣言」を発令するさいの国会での質疑の中で、安倍首相(当時)は、「今般の新型ウイルス感染症への対応を踏まえつつ」、「(憲法改正において緊急事態条項を検討することは)極めて重く大切な課題」だ(20年4月7日、衆院議院運営委員会)と強調しました。
こうしたコロナ対策に乗じた「治安体制」強化の新たな策動をも念頭において、菅内閣のデジタル改革の危険性をしっかりとらえておくことが必要です。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年4月24日付掲載
菅内閣の「デジタル社会形成基本法案」が示す基本理念には、「個人情報保護」の文言がありません。プライバシー権などの人権保障をないがしろにしたまま、個人データの利活用を推進する内容。
所得や資産、医療、教育など膨大なデータが政府に集中し、国家による個人情報の管理。
菅内閣は、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」? これは「監視の網の目から誰一人取り逃さない」ということでも…。