課税新時代③ 横浜市立大学教授・上村雄彦さんに聞く 市民社会が変革の主役に
―グローバル・タックスを実施すれば巨額の税収が生じると試算されています。
金融取引税や地球炭素税のほかにも、さまざまなグローバル・タックスが世界で検討されています。多国籍企業利潤税、富裕税、武器取引税などがあります。税収についても多くの試算があります。
それらすべてのグローバル・タックスの税収試算を合計すると、およそ2・5兆ドル(272兆円)になります。国連貿易開発会議(UNCTAD)は持続可能な開発目標(SDGs)を途上国全体で達成するためには年2・5兆ドルの資金が不足すると試算しています。理論上、この資金不足をほぼ埋める額がグローバル・タックスによって生み出されます。
―グローバル・タックスの第3の柱は新たな意思決定の仕組みを創造することですね。
グローバル・タックスを実現する過程では、グローバル・ガバナンス(国際問題に関わる意思決定の仕組み)が変革されて民主化されます。国際機関が大きく変わります。
国益に縛られず
現在の国際機関は各国の分担金や拠出金によって成り立っています。理事会のメンバーは基本的に政府代表のみです。政府代表の第一の目的は国益ですから、国益同士の妥協で物事が決まります。
大国が一番大口の資金を出すので、往々にして大国の意向が反映されます。少数の富める人々が運営し、大多数の貧しい人々の意見をあまり反映しない仕組みです。「1%の、1%による、1%のためのガバナンス」と呼ばれます。地球益をめざして行動したくても、現在の国際機関ではできないのです。
グローバル・タックスが財源になると状況が一変します。国際機関が自主財源を持つので、各国の国益に縛られず、地球益をまっすぐ追求できます。納税者は多数で多様ですから、情報を公開して説明責任を果たすことが中心課題になります。資金の流れを透明にし、可能な限り多様な立場の人が入って民主的に使い道を決めなくてはいけなくなります。国際機関の意思決定の仕組みに大きな構造変化が起こるわけです。
―すでに実施されているグローバル・タックスもあります。
主に国際線の航空券に税金を課す航空券連帯税がそうです。フランスや韓国、アフリカ諸国などが導入しています。その税収を財源としてユニットエイド(UNITAID)という国際機関が創設されました。感染症で苦しむ途上国の人々に医薬品と診断技術を供給する機関です。
ユニットエイドの理事会13人中9人は政府代表ですが、市民社会からも2人の代表が入っています。ほかの1人は財団、1人は国際機関の代表です。市民社会が政策決定の中核に入り、現場の思いを持ち込めるのです。
透明性や民主性を欠く現在のグローバル・ガバナンスを変革する核に、グローバル・タックスはなりえます。
核兵器禁止条約の発効を歓迎し、日本政府の批准を要求する人たち=1月22日、東京・新宿駅西口
生存危機の時代
主権国家が国益に固執している間に人類は生存危機の時代に入ってしまいました。自国だけがワクチンを確保しても、コロナ危機は他国から舞い戻ってきて共滅します。自国経済のために二酸化炭素を排出し続ければ、気候危機が進んで共滅します。体制を変えない限り、生存危機は深まっていくでしょう。
―市民社会の役割が大きいのでは。
市民社会ががんばらないと、まずはグローバル・タックスが実現しません。国家は国益第一、企業は利潤第一ですから。国家の利益にも経済の利益にもとらわれない市民社会が主役になるでしょう。
市民社会の成功例はあります。対人地雷全面禁止条約やクラスター爆弾禁止条約、核兵器禁止条約を実現させました。金融取引税を政治課題に押し上げてきたのも市民社会のがんばりでした。鍵はネットワークとパートナーシップです。世界のNGOが網状につながりつつ、同じ志をもつ国家や政治家、企業と連携することです。
そうした変革を主導できるのが市民社会なのです。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年4月8日付掲載
グロバール・タックスにより、国際機関が国家に縛られない自主財源を持つことができる。
その運営には市民社会も参加することになる。国家は国益第一、企業は利潤第一ですから。国家の利益にも経済の利益にもとらわれない市民社会が主役に。
核兵器禁止条約の採択・発効も非同盟諸国とともに市民社会のがんばりがありました。
鍵はネットワークとパートナーシップ。
―グローバル・タックスを実施すれば巨額の税収が生じると試算されています。
金融取引税や地球炭素税のほかにも、さまざまなグローバル・タックスが世界で検討されています。多国籍企業利潤税、富裕税、武器取引税などがあります。税収についても多くの試算があります。
それらすべてのグローバル・タックスの税収試算を合計すると、およそ2・5兆ドル(272兆円)になります。国連貿易開発会議(UNCTAD)は持続可能な開発目標(SDGs)を途上国全体で達成するためには年2・5兆ドルの資金が不足すると試算しています。理論上、この資金不足をほぼ埋める額がグローバル・タックスによって生み出されます。
―グローバル・タックスの第3の柱は新たな意思決定の仕組みを創造することですね。
グローバル・タックスを実現する過程では、グローバル・ガバナンス(国際問題に関わる意思決定の仕組み)が変革されて民主化されます。国際機関が大きく変わります。
国益に縛られず
現在の国際機関は各国の分担金や拠出金によって成り立っています。理事会のメンバーは基本的に政府代表のみです。政府代表の第一の目的は国益ですから、国益同士の妥協で物事が決まります。
大国が一番大口の資金を出すので、往々にして大国の意向が反映されます。少数の富める人々が運営し、大多数の貧しい人々の意見をあまり反映しない仕組みです。「1%の、1%による、1%のためのガバナンス」と呼ばれます。地球益をめざして行動したくても、現在の国際機関ではできないのです。
グローバル・タックスが財源になると状況が一変します。国際機関が自主財源を持つので、各国の国益に縛られず、地球益をまっすぐ追求できます。納税者は多数で多様ですから、情報を公開して説明責任を果たすことが中心課題になります。資金の流れを透明にし、可能な限り多様な立場の人が入って民主的に使い道を決めなくてはいけなくなります。国際機関の意思決定の仕組みに大きな構造変化が起こるわけです。
―すでに実施されているグローバル・タックスもあります。
主に国際線の航空券に税金を課す航空券連帯税がそうです。フランスや韓国、アフリカ諸国などが導入しています。その税収を財源としてユニットエイド(UNITAID)という国際機関が創設されました。感染症で苦しむ途上国の人々に医薬品と診断技術を供給する機関です。
ユニットエイドの理事会13人中9人は政府代表ですが、市民社会からも2人の代表が入っています。ほかの1人は財団、1人は国際機関の代表です。市民社会が政策決定の中核に入り、現場の思いを持ち込めるのです。
透明性や民主性を欠く現在のグローバル・ガバナンスを変革する核に、グローバル・タックスはなりえます。
核兵器禁止条約の発効を歓迎し、日本政府の批准を要求する人たち=1月22日、東京・新宿駅西口
生存危機の時代
主権国家が国益に固執している間に人類は生存危機の時代に入ってしまいました。自国だけがワクチンを確保しても、コロナ危機は他国から舞い戻ってきて共滅します。自国経済のために二酸化炭素を排出し続ければ、気候危機が進んで共滅します。体制を変えない限り、生存危機は深まっていくでしょう。
―市民社会の役割が大きいのでは。
市民社会ががんばらないと、まずはグローバル・タックスが実現しません。国家は国益第一、企業は利潤第一ですから。国家の利益にも経済の利益にもとらわれない市民社会が主役になるでしょう。
市民社会の成功例はあります。対人地雷全面禁止条約やクラスター爆弾禁止条約、核兵器禁止条約を実現させました。金融取引税を政治課題に押し上げてきたのも市民社会のがんばりでした。鍵はネットワークとパートナーシップです。世界のNGOが網状につながりつつ、同じ志をもつ国家や政治家、企業と連携することです。
そうした変革を主導できるのが市民社会なのです。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年4月8日付掲載
グロバール・タックスにより、国際機関が国家に縛られない自主財源を持つことができる。
その運営には市民社会も参加することになる。国家は国益第一、企業は利潤第一ですから。国家の利益にも経済の利益にもとらわれない市民社会が主役に。
核兵器禁止条約の採択・発効も非同盟諸国とともに市民社会のがんばりがありました。
鍵はネットワークとパートナーシップ。