仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

夜明け:動き出す/消える

2007-07-06 04:39:59 | 生きる犬韜
もうすぐ夜が明ける。

少し明るくなってきた空をみると、次第に低くたれ込めた雲が浮かびあがってくる。今日も曇りだろう。でも、曇りの日も嫌いじゃない。何かが起こりそうな気配、予感がある。

子供の頃、山の上の学校へ登ってゆく途中、みあげた先に空だけが覗く階段があった。快晴には何も感じないのだが、ときおり灰色の薄い雲の層が、幾重にも重なって流れるようにみえる日もある。そんなときは、階段を登ったその先に、いつもとは違う風景が広がっているような気がしたものだ。

涼を採るため、少し開けていた窓を押し開くと、ひんやりした空気とともに、濃い緑の香りが流れ込んでくる。ヨーロッパの方で、「月は夜露のもたらし手である。ゆえに、植物は夜に育つ」という民間伝承があるのを思い出す。明け方、ぼくと同じような経験をした人々が、これまで本当にたくさんいたということだろう。

窓の下の道路を、騒がしい音を立てて車が行き交う。いろいろな鳥のさえずりが聞こえてくる。一日が動き出そうとしているが、それに紛れ、やがて緑の香りは消えてゆく。消えてゆくものを忘れまい、と感じる一瞬である。

……ふと気づくと、空もみるみる明るくなってきている。思ったより晴れるかも知れない。
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