以下、数年かけて準備してきたシンポジウムのご案内です。いよいよあと1週間、万障お繰り合わせのうえご参加ください。
2011年3月の東日本大震災によって、東北地方太平洋側の各地は甚大な被害を受け、それに伴い多くの博物館・文化財収蔵庫などが損壊・流失する事態となった。同年6月、東北学院大学博物館は、国の被災文化財等救援委員会からの依頼を受け、宮城県石巻市鮎川地区における被災文化財の一時保管施設となって、瓦礫よりの文化財の救出・損傷程度の確認・洗浄・修復・保管作業を担うこととなった。作業は、同大学の学生ボランティアによって支えられてきたが、幾つかの大学にも応援要請があり、上智大学でもこれに協力し、2011年7月から2013年3月までの1年半ほどの間に、全参加学生の20%に及ぶのべ100名以上を送り出した。洗浄・修復を終えた被災資料は、2015年2月に石巻市教育委員会へ返却されたが、東北学院大学博物館では、その後も、地域における被災資料の展示、訪れた人たちからの聞き取り調査を継続して行っている。
本シンポジウムは、このような文化財レスキュー事業がひとつの区切りを迎えたことを記念し、上智大学の同事業への関わりを振り返りつつ、災害と歴史・文化の関係を考える場として、また種々の困難な現実に対し、文化財や歴史を扱う研究者が果たすべき役割を問う試みとして企画された。東日本大震災によって、東北や北関東を中心とする地域の歴史・文化は、物的な意味でも精神的な意味でも、巨大な喪失を抱え込むことになった。震災直後から列島中で巻き起こった絆と復興の大合唱は、それまで東北を植民地化してきた政治・社会・経済のあり方に反省をもたらすかにみえたが、2016年現在、被災地域には惨事便乗型資本主義が横行し、震災前には盛んであった地方分権の議論はかき消えて、政治・経済の東京一極集中、国権の強化が日に日に顕著になってきている。福島や沖縄の惨状を挙げるまでもなく、人々の心性も地方の切り捨てへ向かい、ステレオタイプの〈日本〉文化が醜い自画自賛とともに喧伝されるなかで、本来は豊饒かつ多様であった地域の歴史・文化の画一化、空洞化が進行している。こうした惨憺たる現状を前に、文化財や歴史を学ぶ学生や研究者は、一体何ができるのだろうか。
歴史学の世界では、2000年代に入った頃から、主にアメリカやカナダ、オーストラリアなど、国民国家と先住民族との軋轢を内包する各地において、社会に開かれた意見交換を通じ公正な歴史の構築を目指す、〈パブリック・ヒストリー(public history)〉の試みが盛んになってきている。日本では、夭逝した歴史学者 保苅実が〈歴史する(doing history)〉こと、すなわち多元的な歴史の交渉を通じて新たな歴史を生み出すクロス・カルチュラライジング・ヒストリー(cross-culturalizing history)を強調したことについて、アートの分野からの接近も多くみられる。このような傾向は、歴史学の生産物にとどまらない〈歴史〉という物語り/物語り行為が、多様な価値観どうしの軋轢を生じる契機・接点であるとともに、さまざまな学術、芸術の意見交換の場として重要な意味を持つことをも明かしている。本シンポジウムも、パブリック・ヒストリーの概念・方法を活用しつつ、文化財レスキュー授業の過程・結果を手がかりに分野を超えた議論の場を作り出し、歴史の可能性を拡大することを目指してゆきたい。
【招聘報告者】
加藤幸治(東北学院大学・同博物館、民俗学) / 池田敏宏(公益財団法人 とちぎ未来づくり財団埋蔵文化財センター、考古学) / 飯田髙誉(インディペンデント・キュレーター、森美術館理事)
【ディスカッサント】
上村崇(福山平成大学、哲学・倫理学) / 佐藤壮広(大正大学他非常勤講師、宗教学) / 丸井雅子(上智大学総合グローバル学部、考古学) / 北條勝貴(上智大学文学部、歴史学)
【タイム・スケジュール】
9:00 開場
9:30 開会挨拶
9:35 本日のスケジュール / 午前の部:学生シンポジウム・経緯の説明
9:40 報告① 東北学院大学学生有志「現在の鮎川と文化財レスキュー活動」
10:20 報告② 上智大学卒業生有志「文化財レスキュー活動を振り返って」
10:50 報告③ 上智大学学生有志「いま、私たちに何ができるのか」
11:20 ディスカッション(~12:00)
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13:30 午後の部:シンポジウム趣旨説明
13:40 報告① 北條勝貴「文化財レスキュー活動と災害経験 ―上智大学学生ボランティアと災害をめぐる想像力―」
14:10 報告② 加藤幸治「語りのオーナーシップで作り伝える“くじらまち”―大学生と取り組む被災地での移動博物館活動の現場から―」
14:50 報告③ 池田敏宏「東日本大震災復興支援埋蔵文化財調査参加記 ―福島県に出向して―」
15:30 報告④ 飯田髙誉「危険の分配 ―芸術作品が炙り出す非対称性―」
16:20 パネル・ディスカッション「歴史・文化の脱中央化へむけて」
17:25 閉会挨拶
17:30 閉会
※ 当日、会場前にて、文化財レスキュー企画展「博物学者ロイ・C・アンドリュースがみた100年前の鮎川」(東北学院大学生企画)を開催致します。
2011年3月の東日本大震災によって、東北地方太平洋側の各地は甚大な被害を受け、それに伴い多くの博物館・文化財収蔵庫などが損壊・流失する事態となった。同年6月、東北学院大学博物館は、国の被災文化財等救援委員会からの依頼を受け、宮城県石巻市鮎川地区における被災文化財の一時保管施設となって、瓦礫よりの文化財の救出・損傷程度の確認・洗浄・修復・保管作業を担うこととなった。作業は、同大学の学生ボランティアによって支えられてきたが、幾つかの大学にも応援要請があり、上智大学でもこれに協力し、2011年7月から2013年3月までの1年半ほどの間に、全参加学生の20%に及ぶのべ100名以上を送り出した。洗浄・修復を終えた被災資料は、2015年2月に石巻市教育委員会へ返却されたが、東北学院大学博物館では、その後も、地域における被災資料の展示、訪れた人たちからの聞き取り調査を継続して行っている。
本シンポジウムは、このような文化財レスキュー事業がひとつの区切りを迎えたことを記念し、上智大学の同事業への関わりを振り返りつつ、災害と歴史・文化の関係を考える場として、また種々の困難な現実に対し、文化財や歴史を扱う研究者が果たすべき役割を問う試みとして企画された。東日本大震災によって、東北や北関東を中心とする地域の歴史・文化は、物的な意味でも精神的な意味でも、巨大な喪失を抱え込むことになった。震災直後から列島中で巻き起こった絆と復興の大合唱は、それまで東北を植民地化してきた政治・社会・経済のあり方に反省をもたらすかにみえたが、2016年現在、被災地域には惨事便乗型資本主義が横行し、震災前には盛んであった地方分権の議論はかき消えて、政治・経済の東京一極集中、国権の強化が日に日に顕著になってきている。福島や沖縄の惨状を挙げるまでもなく、人々の心性も地方の切り捨てへ向かい、ステレオタイプの〈日本〉文化が醜い自画自賛とともに喧伝されるなかで、本来は豊饒かつ多様であった地域の歴史・文化の画一化、空洞化が進行している。こうした惨憺たる現状を前に、文化財や歴史を学ぶ学生や研究者は、一体何ができるのだろうか。
歴史学の世界では、2000年代に入った頃から、主にアメリカやカナダ、オーストラリアなど、国民国家と先住民族との軋轢を内包する各地において、社会に開かれた意見交換を通じ公正な歴史の構築を目指す、〈パブリック・ヒストリー(public history)〉の試みが盛んになってきている。日本では、夭逝した歴史学者 保苅実が〈歴史する(doing history)〉こと、すなわち多元的な歴史の交渉を通じて新たな歴史を生み出すクロス・カルチュラライジング・ヒストリー(cross-culturalizing history)を強調したことについて、アートの分野からの接近も多くみられる。このような傾向は、歴史学の生産物にとどまらない〈歴史〉という物語り/物語り行為が、多様な価値観どうしの軋轢を生じる契機・接点であるとともに、さまざまな学術、芸術の意見交換の場として重要な意味を持つことをも明かしている。本シンポジウムも、パブリック・ヒストリーの概念・方法を活用しつつ、文化財レスキュー授業の過程・結果を手がかりに分野を超えた議論の場を作り出し、歴史の可能性を拡大することを目指してゆきたい。
【招聘報告者】
加藤幸治(東北学院大学・同博物館、民俗学) / 池田敏宏(公益財団法人 とちぎ未来づくり財団埋蔵文化財センター、考古学) / 飯田髙誉(インディペンデント・キュレーター、森美術館理事)
【ディスカッサント】
上村崇(福山平成大学、哲学・倫理学) / 佐藤壮広(大正大学他非常勤講師、宗教学) / 丸井雅子(上智大学総合グローバル学部、考古学) / 北條勝貴(上智大学文学部、歴史学)
【タイム・スケジュール】
9:00 開場
9:30 開会挨拶
9:35 本日のスケジュール / 午前の部:学生シンポジウム・経緯の説明
9:40 報告① 東北学院大学学生有志「現在の鮎川と文化財レスキュー活動」
10:20 報告② 上智大学卒業生有志「文化財レスキュー活動を振り返って」
10:50 報告③ 上智大学学生有志「いま、私たちに何ができるのか」
11:20 ディスカッション(~12:00)
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13:30 午後の部:シンポジウム趣旨説明
13:40 報告① 北條勝貴「文化財レスキュー活動と災害経験 ―上智大学学生ボランティアと災害をめぐる想像力―」
14:10 報告② 加藤幸治「語りのオーナーシップで作り伝える“くじらまち”―大学生と取り組む被災地での移動博物館活動の現場から―」
14:50 報告③ 池田敏宏「東日本大震災復興支援埋蔵文化財調査参加記 ―福島県に出向して―」
15:30 報告④ 飯田髙誉「危険の分配 ―芸術作品が炙り出す非対称性―」
16:20 パネル・ディスカッション「歴史・文化の脱中央化へむけて」
17:25 閉会挨拶
17:30 閉会
※ 当日、会場前にて、文化財レスキュー企画展「博物学者ロイ・C・アンドリュースがみた100年前の鮎川」(東北学院大学生企画)を開催致します。