仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

3月上旬 鳥取~大分横断調査:(2) 安来姫崎

2014-03-30 09:40:56 | 議論の豹韜
前回からの続き。6日は青谷で大きく時間を使ってしまったが、翌日があまりスケジュールに余裕がなかったこともあり、「暗いなかでも写真は撮れるだろう」と、電車を乗り継いでそのまま島根県安来の姫崎へ向かった。ここはいわずと知れた『出雲国風土記』意宇郡安来郷毘売崎条の、語臣猪麻呂の伝承に記された場所である。この地域の海浜部で、猪麻呂の娘がワニに食われてしまい、彼はワニ=神々に祈願して報復を達成する。浜辺の猪麻呂のもとへワニの群れが押し寄せ、娘を喰った一匹のみを残して去って行くのだが、彼はこのワニを屠って「串刺し」に立てるのである。この話、以前から「異類互酬譚」の関係で注目しており、何度かその意味するところを書いたことがある。18日に開催された小諸の環境思想シンポジウムでもさらに踏み込んで読解し、そもそもこの「串刺し」とは何なのかを列島の狩猟漁撈文化の文脈から問い、我々のなかにある「残酷さの尺度」が歴史的に構築されたものであることを明らかにした(シンポジウムの詳細については、また後日アップすることにしたい)。ぼくにとってはそれなりに大事な物語りなのだが、今まで現地を実際には訪れたことがなかったので、(それほど時間は取れなくとも)どんな場所なのか体感してみたかったのだ。
さて、安来駅に到着したのはもう夕方の18:00近く、周囲は闇に閉ざされようとしていたが、何とか現状の概観は確認できた。現在の「姫崎」にはとうぜん古代の面影はなく、漁港というより、工業的な港湾のにおいがする。地形的にも、種々の面で歴史的変容を遂げているだろう。駅のすぐ南側にはこんもりした毘売塚古墳がそびえ、入江全体を見渡せるようになっているが、これが古代を想像する唯一のよすがといえようか。同古墳には、いつの頃からかは不明だが、その名前から想像されるように、猪麻呂の娘を葬ったとの伝承が存在する。海辺には猪麻呂や娘の像まで立ち、郷土のアイデンティティーを涵養するために一役買っているようだ。しかし、あんな「血みどろな話」を郷土の集団的記憶の中心に据えようとは、なかなか奇特というか何というか…『風土記』の伝承が時代を超越して語り伝えられていたのなら、その変容過程にも注目したいところだ。狩猟漁撈文化のなかにある「殺生」への価値付けが、動物/人間の対称性を含む多様なものから残酷なだけのものへ単純化されてゆくプロセスと、相関関係にあることが確認できるかもしれない。個人的には、それに抗う要素がみつかってほしいと思うのだが…今度、時間のあるときに考えてみるかな。
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3月上旬 鳥取~大分横断調査:(1) 青谷上寺地遺跡

2014-03-28 15:30:16 | 議論の豹韜
ちょっと遡ることになるが、3月5~9日の5日間(厳密には4日間)、急遽共同研究の予算を使って鳥取・島根・大分・近畿へと調査に回ることになった。遅ればせながら、ここでも報告しておきたい。まずは5日、昼間は勤務校で幾つか会議を消化し、夜にサンライズ出雲を使用して一路米子へ。朝5時頃に目を覚ますと、列車は蒲郡での強風の影響を受け、予定より2時間弱遅れているとのこと。6時に岡山で新幹線へ連絡するとのアナウンスもあったが、それほど急ぐスケジュールでもなし、個室で仕事もできるのでそのまま乗車していることにした。山陽から山陰へ山越えでは途中で雪が降り出し、中国地方南北の気候の違いも目の当たりにして、11:00頃には何とか米子駅に到着。間髪入れずに山陰本線に乗り換えて、ゴトゴト揺られることさらに2時間弱、まずは念願の青谷上寺地遺跡を訪れた。
厖大な量の木製品・骨角器を極めて良好な状態で出土し、脳の遺存例を含む100体超の人骨が発掘された、知る人ぞ知る「弥生の博物館」である。しかしぼくの目的は、何といっても200を超える国内最大数の卜骨。もちろん、すでに報告書等のデータは確認していたが、ぜひこの遺跡の置かれた環境を肉眼で確認したかったのだ。型どおり遺跡展示館を見学した後は、「鳥取県埋蔵文化財センター青谷調査室」にて、収蔵庫を拝見させていただいた。ここは主に木製品を収めたものだが、説明を受けないと、もうとても弥生前期からの遺物とは思えないほど「新しい」。どこかの民俗資料館か何かを訪れている感覚…そうそう、ちょうど東北学院大学の、レスキューされた文化財の保管庫がこんな印象だった。お忙しい時間を割いて質問に回答してくださった森本倫弘文化財主事によると、第1回の発掘調査の際にこれらが出土した折には、木々などまるで現在のもののようにもっともっと生々しかったという。葉が緑色のまま出土したり、昆虫の羽がそのまま朽ちずに発掘されたりしたそうだ。恐るべきことである。以下、質疑のあらまし(誤りのあった場合は、今後訂正してゆきます)。

Q. 災害の痕跡はあったか?
A. 高潮や津波の痕跡はみられないが、飛砂はあり、防砂に努めたらしい様子はみられる。また、勝部川の河道変遷は頻繁で、それに従って適宜護岸工事を行っている。杉の大板を杭で止める形式と、矢板を打ち込んで並べる形式の2種類があり、かつては時代的先後関係が想定されたが、最近の発掘によって、場所や情況に応じて方法を変更していることが分かってきた。矢板の方は、すべて建築材の再利用である。
Q. 大板を取れるような大径の杉が無くなって、廃材から作れる矢板を利用したのでは?
A. 可能性はあるが、周辺は樹木資源が極めて豊富であり、木製品や花粉、植物遺体その他は継続的に確認できるので、使える木が無くなるまで伐採され尽くすことはなかったと思う。
Q. 景観復原CGは、本当に緑豊かな情況に作られているが、周辺には他の集落、水田など広がっていなかったのか。
A. 最近、水田西側の葦原まで試掘を広げているが、幾つか水路が確認できている。景観復原CGにはもちろん根拠があるが、時間的な推移も含めて、今後全貌が変わってくることはありうる。なおこの遺跡では、中心地域に竪穴住居が出ていない。地下水位が高いためかと思われるが、周辺に墳墓もない。それらしい高台はあるの踏査を行っているが、未だ確認はできていない。
Q. 交易港湾拠点などといった位置づけがあるが、これまで確認できていないような性格の施設ということもありうるか。
A. ありうる。内湾が作られた環境が種々適切だったのだろう。しかし、こういった類の施設は、今後発見されてゆく可能性もある。北陸との交易拠点が点在しているのではないか。
Q. 保存状態が極めてよいために、腐り朽ちてしまうような微細な木製品、網籠、織物なども出土している。そのために「技術力の高さ」がいわれるが、それは文字どおりこの遺跡が突出しているのか、それとも一般性・普遍性を想定できるのか。
A. もちろん、朝鮮半島や大陸との交易関係があるので技術・文化は高いはずだが、ある程度の一般性は背景として想定せざるを得ない。
Q. 魚型木製品は珍しいのではないか。サメの線刻は、安来のワニの伝承などを想定されるが。やはり祭祀関連?
A. 祭祀、ということになっている。そもそも魚型なのかどうか分からないわけだが、サメがあるので。中国地方日本海側独特の文化だと思う。
Q. 左右の肩甲骨のセットが3組まとまって出土していることから、韓国南岸の勒島遺跡との関係が想定されているが、卜占関係でその他交流を窺わせる痕跡はあるか。
A. 卜占関係ではあれひとつしかない。木製品や骨角器では、同じ形式のものが出ているので、関係があったことは間違いない。
Q. 中国の遺物も出ているようだが、江南地方との関係はどうか。
A. 残念ながら、中国のものは、地域的に特定できるようなものを見出せていない。

森本主事にお礼を申し上げ、高台から、遺跡と海辺までの風景を俯瞰。粉雪の舞い散るなか、しばし弥生時代に思いを馳せた。
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「環境思想シンポジウム」で講演します

2014-03-04 11:23:11 | ※ 告知/参加予定
突然ですが、以下のシンポジウムで、今年度最後の報告・講演をすることになりました。今回は準備の時間がまったくないので、どうなるか見当がつきません。ホストの方々はその道の第一人者ばかりですので、議論は実り多いものとなるのではないでしょうか。

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《第4回環境思想シンポジウム開催のお知らせ》

地球環境問題の改善にとって、環境思想は非常に重要な役割を果たしています。また、自然体験活動や環境教育の普及のためにも、その基盤となる環境思想の必要性が指摘されてきました。
4回目となる今回も、著名な方々をお招きし、活発な議論が展開されます。みなさまのご参加をお待ちしております。

○日時  2014年3月18日(火)9:00~15:00(受付8:30~)
○会場  安藤百福センター(所在地:長野県小諸市大久保1100)
 ※ 駐車場は近隣の温泉「あぐりの湯 東側駐車場」をご利用ください。
 ・定員 50名 参加費無料
 ・対象 誰でも参加可能
 ・主催 安藤百福記念 自然体験活動指導者養成センター

○スケジュール(予定)
 09:00  開始
 09:10  講演① テーマ:ゲーリースナイダーについて(仮)
      ・山里勝巳(名桜大学副学長・琉球大学名誉教授)
 09:50  講演② テーマ:〈串刺し〉考―〈残酷さ〉の歴史的構築過程―(仮)
      ・北條勝貴(上智大学准教授)
 10:30  講師の研究紹介
 12:00  昼食
 13:30  全体ディスカッション(ラウンドテーブル方式)
 15:00  終了

○講師(予定・敬称略)
 加藤尚武(京都大学名誉教授)
 鬼頭秀一(東京大学教授)
 野田研一(立教大学教授)
 朝岡幸彦(東京農工大学教授)
 降旗信一(東京農工大学准教授)
 結城正美(金沢大学教授)
 関智子 (青少年教育研究センター主任研究員)
 コーディネーター:岡島成行(大妻女子大学教授・安藤百福センター長)

○お問い合わせ・お申し込み
 安藤百福記念 自然体験活動指導者養成センター(安藤百福センター) 
 環境思想シンポジウム事務局 担当:小島、早川
  TEL:0267-24-0825 FAX 0267-24-0918 
  E-mail:info@momofukucenter.jp ※@を半角に変換して送信してください。
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