仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

何ごとにも終わりがある

2006-08-31 09:20:29 | 生きる犬韜
長かった学芸員講習も、今日でちょうど1ヶ月。始まったときは気の遠くなるような思いをしましたが、やはり何ごとにも終わりがあるもの。金曜で実習は完了となりますし、あとは1単位の「生涯学習概論」を残すのみです。昨日は「視聴覚教育メディア論」のテストで、里山批判の企画展を考えました。1万年余の長期にわたり列島で伐採されてきた/列島で使用するため他国で伐採された樹木量を推算、その何分の一かの切り株を出口付近のホールに敷き詰め、来館者に踏みしめながら帰っていただくという悪趣味な内容です(各方面から批判が来て実現できないだろうなあ)。「視聴覚メディアは、来館者の想像力を補完し、さらに発展させるために使用するが、その際、具体性を増すこと/あえて情報を制限することを使い分けるようにする」と書いたら、翌日の講評で〈リテラシー教育〉に関わる問題意識として紹介されました。ま、メディア・リテラシーはいつもの講義でも意識していますが、このくらいは当然のことなのでは……(すべては分かりやすさ至上主義批判のために、ということで)。担当の中條英樹先生は歴博の機関研究員なので、気を遣ってくださったのかな?

ところで、講座が減って時間ができてきた途端、休暇中にやっておかねばならないことの多さが自覚されてきました。朝から晩まで学芸員漬けのあいだは、そのことだけを考えていればよかったのに……。この感覚、前にもいちど味わったことがあるなあと考えていましたら、そうそう、修士1年の7月に参加した〈得度習礼〉でした。あのときも、最初は慣れずに辛かったけれども、終わる頃にはとても〈楽〉な気分でした(寺から出ないというのはこんなに幸せなのか、市井に交わらねばいかん!と本気で思ったものです)。

晴れて出所したら、まずは『ゲド戦記』を観にゆかねば(ってそれかよ)。
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また何かが生まれそう

2006-08-27 00:28:27 | 生きる犬韜
種山ヶ原の夜

ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

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早稲田の学芸員講習も、ようやく半ばを過ぎました。来週からは朝は2限からなので、少し楽になります。
今週は、実習の方では、複製品の作成・拓本・刀剣の取り扱いなどを学びました。刀剣についてはやはり恐れと緊張がありましたが(他人が扱っているのをみるのが余計に怖い)、作法を集中してこなせばとりあえず安全。刃の複雑な表情(みる角度、光のあたり方などによって、まったく異なる世界が生じる)に魅せられているうちに、もっとたくさんの刀剣をみてみたくなりました。「剣相書」なる卜書が存在するのも納得(こいつは亀甲にも匹敵しますよ。亀の次はこっちにゆくか)。
金曜の夜には、「博物館資料論」の岡部央先生、TAの田辺さん、京都造形芸術大の飯田さんらと中じめの飲み会。普段は交錯することのないような背景を持った人間の会話に、いろいろモチベーションが高まりました。7月に、猪股さん・武田さん・三品さんとの飲み会で、「ふつうの本じゃない形で、古代の夢が表現できないか」と話し合っていたのですが、それに何か繋げられるかも知れません。飯田さんの専門は現代アートですが、ドゥルーズ・ガタリ、デリダなどのフランス現代思想、歴史学や人類学にも造詣が深く、中沢新一とも昔なじみらしい(ああ、『ルプレザンタシオン』!)。「夢」の話には、情報歴史学の師さんも興味を示してくださっているので、将来的に面白いことができるかも。

上の写真は、男鹿和雄が紙芝居的手法で撮った『種山ヶ原の夜』。アニメーション表現としては面白みに欠けますが、移り変わる山の景観を描いた画は美しい(樹霊はグリーンマンか葉っぱのフレディといったイメージ。あまり宮澤賢治的ではないかも)。樹霊が人間に、「山の木を伐らないでくれ。伐ったとしても大事に使ってくれ」と呼びかける物語ですが、〈伐採抵抗〉を前提に読むと深さが違ってきます。後期の一般教養「日本史」で課題に出そうかなあ。
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三足の草鞋

2006-08-20 15:08:54 | 生きる犬韜
猫町

ビデオメーカー

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学芸員課程集中講座の2週目が終了。とにかく、月曜朝の大停電で出鼻を挫かれ、以降なかなか自分のペースを取り戻せない1週間でした。

1日の前半は、博物館経営・情報論。高知県立美術館の篠雅廣さんが講師で、博物館経営のプラクティカルな知・技術を教わりました。最初にブルデューが出てきたので質問したところ、かなりポスト・モダンな人でしたね。指定管理者制、博物館の危機管理の問題(阪神淡路大震災におけるご自身の体験より)も、語り口は諧謔的かつ軽妙ながら、魂の籠った重みのある講義で感動的でした。
そのなかで、仮想の博物館の建設計画を立てるグループ・ディスカッションがあったのですが、世代の違う方々の<人生の背景>を垣間見る意見交換ができて、非常にためになりましたね(とくに、京都造形芸術大学の飯田高誉さんには仲良くしていただき、昼休みごとにけっこう深い意見交換もできました)。結果として企画されたエコ・ミュージアム、〈早稲田アーカイヴ・キューブ〉はなかなかに現実的な内容だったと思うのですが、私のプレゼンのせいでその真価を充分に公表できず残念。なんと与えられた時間は3分間、私を知る人には自明でしょうが、そんな短い時間で思いの丈を語りうるスキルは持ち合わせていません(胸を張っていえます。張るなっつーの)。しかし他班は立派なもので、パワーポイント等を駆使して〈分かりやすい〉発表を行っていました。10時に帰宅してからも仕事のある身では、そんな準備をする余裕もありませんでしたが、それは他の参加者も似たり寄ったりでしょうか。こんな形で〈分かりやすさ至上主義〉の反駁を食らうことになろうとは……まったく迂闊でした。

さて、1日2時間睡眠で疲労の限界に達していたものの、何とか倒れずに金曜日に到達。しかし、午後から夜にかけての博物館実習は、やっていることは面白いものの、時々立ち眩みのするありさまでした(つらかった……)。この土・日でJ大の採点も終えたので、ようやく明日からは学芸員講習のみに集中できます。三足の草鞋のうち、二つは少々脱いでおいて(とうぜん、いつも腰にぶら下げておかなければならないのですが)、あと3週間、体を軽くして頑張りますか。

上の写真は、以前に『冥途』を紹介した金井田英津子の『猫町』。東映アニメーションが新たに打ち出した新シリーズ、良質なイラストレーションを核とする映像作品<画ニメ>の1作。この絵が動き出す幻惑の世界。『冥途』『夢十夜』も出してほしいなあ。
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8月が走り出す

2006-08-08 22:35:00 | 生きる犬韜
『デス博士の島その他の物語』

国書刊行会

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8月が走り出した。いつもお盆で大変な時期ですが、今年は輪を掛けて忙しい。というか、休みのない状態です。
前回も書いたとおり、第1週は早稲田で学芸員課程の夏期集中講座。大橋一章先生の「博物館概論」と、山西優二先生の「教育学概論」を受講しました。「教育学……」の山西さんは、国際比較教育論がご専攻。他者表象に関連するテーマがずいぶん出てきて刺激されましたし、かなり受講者への発言を要請する講義でしたので、いろいろな立場の方の意見が聞けて勉強になりました(この講座、社会人対象だけあって、本当に様々な経歴の人が参加しています。何人かの方々と知り合いになりましたが、それだけでもありがたいことですね)。大橋さんの最後の講義では、美術史のRAの方を通じて「面が割れて」しまいました。課題が出しづらい……。

講座受講中の2日(水)には、一時帰国中のしゅいえほん君と、夫婦相集まっての飲み会。元気で活躍している様子はブログでみていましたが、1年前とほとんど変わっておらずひと安心。いろいろ突っ込んだ話もしたかったのですが、いざ会ってみるとみんなで学界ネタのバカ話。日本史学界にはまともな若手研究者はいないのか、みんな異常者じゃないのか、という気になりました(自分のことは棚に上げて)。妻の提案でラーメンまで食べて、その日は九段のホテルグランドパレスに宿泊しました。しかし、この部屋が○○円とは安すぎる……。

5日(土)は、某大学で仏教史学会シンポジウムの打ち合わせ。聖徳太子の歴史的表象の意味を問う内容で、昨今の実像/虚像の二項対立とは一線を画そうと計画したもの。報告者も揃い、それぞれの方から発表予定の内容をうかがって、討論の構想を練る。議論が百出しそうなので、どこをどう抑え、どこをどう盛り上げるかが成功の鍵。司会の責任は重大です。ところで、この会合で以前からご研究を恐懼して拝読している、石井公成さんと初めてお会いしました。共通の知人は多いのですが、重なり合った分野を研究していながら、今までお顔を拝見していなかったのは不思議です。周囲から「論客だよ」と聞かされていましたが、なるほど、シンポの討論は石井さんの独壇場となりそう。また、本番には中国から王勇さんをお招きしているのですが、実は、王さんはしゅいえほん君の上司。ということで、前日に無理をいって、彼にも会合に参加してもらいました(ありがとーう)。会議終了後は、佐藤文子さん・藤井由紀子さん・しゅいえほん君と近くのエクセルシオールでお茶。近年の聖徳太子研究のあり方について雑談。しかし、藤井さんの読書作法(文章から書き手の性格を細かく想定してゆく)は面白い(私も以前、八方美人的性格を細々と分析されたのでした)。
翌日は歴博の共同研究会なので、この日はそのまま佐倉へ直行。途中、上野で「古書まつり」を覗き、『和辻哲郎全集』の「日本倫理思想史」2巻分を1050円で購入(重い……)。

歴博の研究会は、井上寛司さんによる「中世諸国一宮制研究の現状と課題」。井上さんが研究会を主宰し主導してきた分野で、いろいろご教示を賜りました。井上さんは中世神話についても、一宮をひとつの鍵として考えてゆけるのではないかと構想されているもよう。主にテクストとネットワークのなかで深められている分野なので、空間的な視野がどのような展開を生じるか期待したいですね。ところで、「一国に神話的イデオロギーを維持する一宮を前提に、神国日本という全体性が成り立つ」という話をうかがっていて、道宣の『集神州三宝感通録』を思い出しました。意味は違うけれども「神州」という語句を冠していて、阿育王塔の霊験譚を集めて仏教の聖域=インドの広がりを立証しようとする書物。国分寺はもちろん、「神国日本」思想にも何らかの役割を果たしているのではないでしょうか。ま、中世思想史で誰かが指摘していそうですが。

今週は学芸員講習はお休みですが、自坊のお盆とJ大レポートの採点があります。さらに、学生として「教育学」のレポートも書かねばなりません。気を引き締めていきましょう。
ところで上の写真は、ジーン・ウルフのSF短編集。猪股さん・武田さん・三品さんとの飲み会のなかで、〈往年の『SFマガジン』読者の知的センス〉が話題になっていたこともあって、以前から書店で手に取り/棚に戻しを繰り返していた、ウルフの作品を読んでみようと決意。『ケルベロス第5の首』は時間がかかりそうなので、まずはこちらから。通勤電車のなかでめくっていますが、幻想文学としてなかなか不思議な味わいです。猪股さんおすすめの、ブラッドベリ『十月はたそがれの国』も読みたいなあ。ちなみに、『SFマガジン』8月号はレムの追悼特集、9月号はダン・シモンズの特集でした。どちらも好きな作家なので、久しぶりに購入してしまいました。
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