仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

国会議事堂を「観」にゆく(9):微地形断想2

2015-08-01 13:36:15 | 国会議事堂を「観」にゆく
昨日は、オープンキャンパスのため出勤。朝から熱中症気味で頭痛が激しかったが、バファリンでだましだまし働いた。史学科のブースに13:45~16:30まで詰めていたのだが、13組前後は相談しただろうか。受験生も親御さんも、この猛暑のなか、アスファルトしかない紀尾井町に出てくるのは大変だったろう。そのあとは、文学部の打ち上げにちょっとだけ顔を出し、幾つか残務作業を終えてから国会へ。相変わらず頭痛はあったが、出勤して担わねばならない仕事がほぼ終わったという解放感も手伝って、いつもどおりの時間に議事堂へ出かけた。

議事堂前は、集会が終わり、報道陣・警邏隊が撤収を始めたところ。まだ多少若者たちが残って意見交換をしている脇に腰を下ろし、しばらく思いを巡らせた。上智大学でも有志の会が起ち上がり、現在呼びかけ人・賛同者を集めているが、やはり靖国参拝拒否事件を声明の軸に据えるようだ。有志の会声明「シリーズ」は、もはや免罪符の様相を呈しているが、こうした機会に、いまの学生たちを過去へ接続する努力をなすことは重要だろう(前にも書いたが、ぼくはこの事件を、上智ノンポリ化の遠因のひとつとみている。当局の弾圧とだけ捉えるか、それともより自省的にみるかで、見識を問われそうな気もする)。しかし、「有志」とはまさに便法であり、多様性を保持して立場の強制をしないとの建前をとりながら、本音としては共同体・組織が一丸となれない脆弱さを隠蔽し、軋轢を生じず規制を受けないための言い訳として機能している。結局は、個人として何をなすかが大切になってこよう。

さて、7~8回あたりで疑問に思ったことを、嘉永7年尾張屋清七板「麹町永田町外桜田絵図」と、現代の地図を引き比べて考えてみた。麹町台地の東南端に位置する国会議事堂は、幕末段階ではその東北部を井伊掃部頭邸(もとの加藤清正邸)、東南部を松平安芸守・松平美濃守・徳永伊予守・九鬼長門守邸、西部を木下図書助邸から内藤紀伊守邸まで、小規模の大名屋敷をかなり含み込む形で成立している。以前に気になった国会図書館との間の道の微妙なカーブは、やはり江戸の町割に依拠しているようだ。下に載せた切絵図は方角・面積がかなり歪んでいるので分かりにくいが(よく重ね地図!などという人がいるが、江戸切絵図を現在の地図と重ねるためには、実地の調査に基づいて大幅に書き直さねばならない)、井伊邸の西南から細川豊前・松平主計の間を走る道がそれにあたり、画面の外へ出たあたりで左の方へ曲がっている。大村丹後守邸あたりが、現在の国会図書館と重なる。井伊邸お濠側のサイカチ河岸沿いの形状も、ほぼ憲政記念館を含む前庭のそれに重なるが、あとはほとんど江戸期の町割・交通路を無視して建てられているといっていいかもしれない。
画面には出していないが、地図の南側、8回目で降りた首相官邸・内閣府の間の坂を落ち込んだ先は、江戸期では外濠に続く「溜池」となる。そこから議事堂の衆議院南門に出る「昭和レトロな坂」も、やはり江戸期の名残で「サザ井ジリ」と絵図にあるものだった。画面右下、杉浦八郎五郎・丹波左京大夫邸の間に書かれている坂がそれで、付近に「篠井」とでもいう走井があったのだろう。『江戸砂子』を読むと、周辺には吉凶を生む伝説を持った複数の井戸が存在したようで、そのうちのひとつだったのかもしれない。
サザ井ジリを登り切って接続する坂が現在の議事堂南側の坂で、絵図では潮見坂→裏霞ヶ坂となっている。当時は、ここから江戸に迫る海がよくみえたのだろう。現在はビルが林立するばかりで、いまの世のなかのように見通しが利かない。抗議に押し寄せてくる人々を、却けた海の回帰とみることは可能だろうか。福島原発の事後処理で海を冒涜した国が、さらにひとびとの荒波にさらされている。

さあ、この土日は少し英気を養いつつ、残りの書類を片付けて、レポートも読み始めなければ。また、4日は京都で研究会・編集会議での報告があり、浄土神楽と中国少数民族の指路経を比較するという面倒なテーマに挑まねばならない。前者についてはまったくの素人なので、『日本庶民生活資料集成』から始めて、井上隆弘さん、三村泰臣さんの研究を読み進めてゆかねば(今年は霜月神楽も観にゆく必要あるな)。敦煌文書の仏教説話に、『霊異記』や医書との関係で気になる文書もみつけ、中文研究書を取り寄せて目を通しているところなのだが、これは少し横に措いておかないと。
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