乗り切ったというべきか、乗り切れなかったというべきか。
結局、27日(水)の大妻の講義は休講にしてしまった。実はこれまで、自分が受け持った授業を、体調のせいで休講にしたことは一度もなかった。最初に引き受けた日本女子大の講義など、前日に39度の高熱を出していながら準備をし、朦朧としつつも、ちゃんと最後まで話し終えた経験がある。しかし…声が出ないのでは、教壇に立っても如何ともしがたい。急遽ビデオを見せるなどの手はあるが、ちょっと詐欺っぽい。ここは正々堂々と休講にして、体力回復に努めようと決心した次第。
行きつけの個人病院へいって薬を貰うと、なんとか喉の痛みは緩和された。やはり医学の力はすばらしい。
しかし、その次にやって来たのが激しい咳き込みである。ふだんは何でもないのだが、ふとした拍子に突然襲ってくる。28日(木)の豊田地区センターの講義は、この咳き込みにやられた。飲み物を側に置いてなんとか凌いだが、途中、何度か中断して参加者の皆さんに心配をかけてしまった。ごめんなさい。
翌29日(金)、咳が止まらないものかと希望を抱いていたが、書類を作成していてほとんど睡眠もできなかったため、状態は変わらず。研究室で回覧書類の処理をしていると、4年生のEさんが卒論の相談にきたが、彼女の前でも思いっきり咳き込み、心配されてしまった。Eさんのテーマは、平安期の音楽のありようを、物語、儀式書、古記録等から復原してゆくこと。個性的な、いい問題意識である。今年の4年生は、古代の庭、肉食、東北の仏教と、テーマ選択がユニークでしっかりした意志が感じられる。もう進路の方は決定しているようなので、どのように仕上げられてゆくか、先が楽しみである。
咳を気にしてトーンを抑え、スピードもゆっくり目にしていたためか、特講の方は思うように進まなかった。『書紀』『古事記』の夢見記事で非常に面白いことに気づいたのだが、そこにあまり時間をかけすぎると、『更級日記』までたどり着けない。どこかでまた調整が必要かも知れない。
さて、先週、猪股さんから薦めを受けた「守人シリーズ」の番外編「賭事師」。短編だが、かなり気に入った。ネタバレになるので物語の要約は避けるが、作り込まれた〈ゲーム〉のルールと歴史、それを商売にする賭事師の生活、約束ごと、心意気に、彼らの生業を許している社会の仕組み。相変わらず、背景の描写に大変手が込んでいる。そして、それを舞台に展開される人間ドラマは、互いが互いを思いやる心の温かさとすれ違い。またそのすれ違いに、若年の男女と老年の男女との間では深みの差がにじみ出る、〈取り返しのつかない切なさ〉が現れる。しかし、登場人物のひとりひとりがどのような思いを抱いているか、どのような葛藤が存在するのか、それについてはほとんど言葉を尽くさず、ちょっとした間や仕草でサラッとみせる。もとは児童文学だが、非常に上品な筆致である(書きすぎるために場が恥ずかしくなり、読んでいられなくなるある歴史小説家T氏の作品とはまるで違う。あえて比較対象にしなくてもいいのだが)。それゆえに、様々な解釈も可能にしており、ゆったり読むことのできる佳品となっている。ぼくもお薦め、としておきたい。
ところで、4月からのクールで唯一観続けてきたドラマ、『私たちの教科書』が終わった。坂元裕二という脚本家は、今までまるで信用していなかったが(とくに最近の『西遊記』は目も当てられなかった)、今回は真剣に取り組んでいたようだ。こんな辛い話をどう結ぶのかと他人事ながら心配していたが、一応、救いのあるラストにはなっていた。しかしその分、死んだ少女の無念さは、かえって際立ってしまったのではないだろうか。登場人物みんなが、その少女の死が自殺ではなかったこと、彼女が力強く生きようとしていたことに救いを見出したようだが、それならばなお一層のこと、事故死なるもののやりきれなさが胸に迫る。まったく孤立した、否応のない〈死〉というものが立ち上がる。それを口にしえたキャラクターがいなかったのは、ちょっと消化不良であった。あえてそうすることで、「裁判を戦ってきた大人たちも、結局みんな自分が救われたかっただけなんだよ」と視聴者を突き放しているのだとすれば、それはそれで周到な演出といえそうだが。
深夜に放送していた、アニメの『のだめ』も終了。結局ドラマと同じところまでしか描かなかった。ヨーロッパ編こそ、アニメの本領発揮となったはずだが…第2シーズンはあるのだろうか。あるなら、もう少し演奏場面に高い志をみせてほしい(後半は少しはよくなってきたが、当初の止め画の多用は、アニメであることをすでに放棄していた)。後番組は、昨年大きな衝撃を与えた怪『化猫』(左の写真はそのDVD。一見の価値あり!)のシリーズ化作品『モノノ怪』。絢爛な画作りにスピード感とオリジナリティ溢れる描写、神話や祭儀を意識した展開はそのままか。大いに期待したい。
結局、27日(水)の大妻の講義は休講にしてしまった。実はこれまで、自分が受け持った授業を、体調のせいで休講にしたことは一度もなかった。最初に引き受けた日本女子大の講義など、前日に39度の高熱を出していながら準備をし、朦朧としつつも、ちゃんと最後まで話し終えた経験がある。しかし…声が出ないのでは、教壇に立っても如何ともしがたい。急遽ビデオを見せるなどの手はあるが、ちょっと詐欺っぽい。ここは正々堂々と休講にして、体力回復に努めようと決心した次第。
行きつけの個人病院へいって薬を貰うと、なんとか喉の痛みは緩和された。やはり医学の力はすばらしい。
しかし、その次にやって来たのが激しい咳き込みである。ふだんは何でもないのだが、ふとした拍子に突然襲ってくる。28日(木)の豊田地区センターの講義は、この咳き込みにやられた。飲み物を側に置いてなんとか凌いだが、途中、何度か中断して参加者の皆さんに心配をかけてしまった。ごめんなさい。
翌29日(金)、咳が止まらないものかと希望を抱いていたが、書類を作成していてほとんど睡眠もできなかったため、状態は変わらず。研究室で回覧書類の処理をしていると、4年生のEさんが卒論の相談にきたが、彼女の前でも思いっきり咳き込み、心配されてしまった。Eさんのテーマは、平安期の音楽のありようを、物語、儀式書、古記録等から復原してゆくこと。個性的な、いい問題意識である。今年の4年生は、古代の庭、肉食、東北の仏教と、テーマ選択がユニークでしっかりした意志が感じられる。もう進路の方は決定しているようなので、どのように仕上げられてゆくか、先が楽しみである。
咳を気にしてトーンを抑え、スピードもゆっくり目にしていたためか、特講の方は思うように進まなかった。『書紀』『古事記』の夢見記事で非常に面白いことに気づいたのだが、そこにあまり時間をかけすぎると、『更級日記』までたどり着けない。どこかでまた調整が必要かも知れない。
さて、先週、猪股さんから薦めを受けた「守人シリーズ」の番外編「賭事師」。短編だが、かなり気に入った。ネタバレになるので物語の要約は避けるが、作り込まれた〈ゲーム〉のルールと歴史、それを商売にする賭事師の生活、約束ごと、心意気に、彼らの生業を許している社会の仕組み。相変わらず、背景の描写に大変手が込んでいる。そして、それを舞台に展開される人間ドラマは、互いが互いを思いやる心の温かさとすれ違い。またそのすれ違いに、若年の男女と老年の男女との間では深みの差がにじみ出る、〈取り返しのつかない切なさ〉が現れる。しかし、登場人物のひとりひとりがどのような思いを抱いているか、どのような葛藤が存在するのか、それについてはほとんど言葉を尽くさず、ちょっとした間や仕草でサラッとみせる。もとは児童文学だが、非常に上品な筆致である(書きすぎるために場が恥ずかしくなり、読んでいられなくなるある歴史小説家T氏の作品とはまるで違う。あえて比較対象にしなくてもいいのだが)。それゆえに、様々な解釈も可能にしており、ゆったり読むことのできる佳品となっている。ぼくもお薦め、としておきたい。
ところで、4月からのクールで唯一観続けてきたドラマ、『私たちの教科書』が終わった。坂元裕二という脚本家は、今までまるで信用していなかったが(とくに最近の『西遊記』は目も当てられなかった)、今回は真剣に取り組んでいたようだ。こんな辛い話をどう結ぶのかと他人事ながら心配していたが、一応、救いのあるラストにはなっていた。しかしその分、死んだ少女の無念さは、かえって際立ってしまったのではないだろうか。登場人物みんなが、その少女の死が自殺ではなかったこと、彼女が力強く生きようとしていたことに救いを見出したようだが、それならばなお一層のこと、事故死なるもののやりきれなさが胸に迫る。まったく孤立した、否応のない〈死〉というものが立ち上がる。それを口にしえたキャラクターがいなかったのは、ちょっと消化不良であった。あえてそうすることで、「裁判を戦ってきた大人たちも、結局みんな自分が救われたかっただけなんだよ」と視聴者を突き放しているのだとすれば、それはそれで周到な演出といえそうだが。
深夜に放送していた、アニメの『のだめ』も終了。結局ドラマと同じところまでしか描かなかった。ヨーロッパ編こそ、アニメの本領発揮となったはずだが…第2シーズンはあるのだろうか。あるなら、もう少し演奏場面に高い志をみせてほしい(後半は少しはよくなってきたが、当初の止め画の多用は、アニメであることをすでに放棄していた)。後番組は、昨年大きな衝撃を与えた怪『化猫』(左の写真はそのDVD。一見の価値あり!)のシリーズ化作品『モノノ怪』。絢爛な画作りにスピード感とオリジナリティ溢れる描写、神話や祭儀を意識した展開はそのままか。大いに期待したい。