く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<カキツバタ(杜若・燕子花)> 歌に詠まれ絵の題材にも

2021年05月10日 | 花の四季

【五千円札裏面の花は光琳の国宝屏風から】

 池や川辺などの湿地に自生するアヤメ科アヤメ属の多年草。日本のほか中国、朝鮮半島にも分布する。5~6月ごろ、叢生する剣状の葉の間から高さ50~70cmの花茎を立ち上げ、鮮やかな青紫色の花を付ける。「いずれ菖蒲(あやめ)か杜若」と形容される気品のある佇まいが愛され、古くから歌に詠まれたり絵画に描かれたりした。花の美しさから「貌(顔)佳花(かおよばな)」という別名を持つ。

 カキツバタの語源は「書き付け花」で、これが転訛したものといわれる。昔この花は汁を布に摺り付け染めるために使われた。花弁内側の付け根の中央に白いラインが入るのがこの花の目印。花の色や形がよく似たアヤメは黄色の花弁の基部に網目模様が入る。カキツバタは古く万葉集にも「垣津旗」などの表記で7首詠まれている。「われのみやかく恋すらむ杜若 丹(に)つらふ妹はいかにかあるらむ」(巻10-1986)。

 平安貴族の在原業平は東下りの途中、三河国八橋(現在の愛知県知立市)で目にしたカキツバタに旅情を誘われ、句頭にカ・キ・ツ・バ・タの5文字を織り込んだ歌を詠んだ。「唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」。この業平の歌にゆかりのある愛知県ではカキツバタが県の花になっており、知立市と刈谷市でも市の花に選ばれている。知立市の無量寿寺境内には「八橋かきつばた園」があり、刈谷市の小堤西池の群落は京都市の大田ノ沢、鳥取県岩美町の唐川とともに日本三大カキツバタ自生地と呼ばれている。

 江戸時代には絞り咲きや四季咲き性、斑入り葉など多くの園芸品種が生み出され、カキツバタは工芸品や衣装、絵画などのモチーフとしても盛んに取り上げられた。美術品として有名なのが尾形光琳作「燕子花図屏風」。金地に群生するカキツバタを描いた六曲一双のこの屏風は国宝になっており、その画面の一部は五千円札の裏面のデザインにも採用されている。屏風を所蔵するのは東京の根津美術館。今春には開館80周年記念特別展として4月17日から1カ月間「国宝燕子花図屏風―色彩の誘惑」展を企画。ところが開幕1週間後に新型コロナで緊急事態宣言が出されたため、残念ながら途中打ち切りとなってしまった。「船着きてそこらに波や杜若」(長谷川零余子)

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