【別名に「オオイ」「マルスゲ」、万葉集にも1首】
フトイは池や沼などの湿地に群生するカヤツリグサ科の多年性抽水植物。日本以外にもアジア、ヨーロッパ、南北アメリカなど世界各地に広く分布する。畳表などに使われるイグサ(藺草、標準和名「イ」)に似ており、太い茎をまっすぐ立てることからその名が付いた。茎は直径1~2cmの円柱形で高さは1~2mになる。ただイグサはイグサ科に属しており、分類上では同じ仲間とはいえない。
花期は5~8月頃。茎の先端に黄褐色の小さな花穂を数個ずつ付ける。学名は「Shoenoplectus tabernaemontani(ショエノプレクツス・タベルナエモンタニ)」。よく栽培されるものに白~淡黄色の横縞模様が茎に入る「シマフトイ」(ヨコシマフトイとも)、縦に白い筋模様が入る「タテジマフトイ」があり、生け花やフラワーアレンジメントに使われる。別名に「オオイ(大藺)」や「マルスゲ(丸菅)」など。万葉集にも「於保為具左(おほゐぐさ)」として1首登場する。「上毛野(かみつけの)伊奈良の沼のおほゐぐさ よそに見しよは今こそ勝れ」(巻14-3417、作者不詳)
フトイは茎に節がなく丈夫なことから世界中で籠や帽子などの材料として利用されてきた。日本では茎を編んで筵(むしろ)に加工し、各地の湖沼に水質浄化用としても植栽されている。ヨーロッパでも観賞用として庭園の水辺に植えられ、河川や干拓地の土留め用としても利用されてきたという。南米・アンデスのチチカカ湖では「トトラ」と呼ばれるフトイの仲間が浮島造りに使われ、手作りの家や舟などの材料としても活用されているそうだ。「雨の中雨が太藺に凝りにけり」(阿波野青畝)