【漏斗状の白花を密に、虫の名はカイガラムシの仲間イボタロウムシ】
北海道から九州まで全国の山野に広く分布するモクセイ科イボタノキ属の半常緑性低木。樹高は2~4mほどで、5~6月ごろ新しい本年枝の先に総状花序を出し、白い小花をたくさん付ける。花は先端が4つに裂けた筒状の漏斗形。10~12月ごろ同属のネズミモチによく似た楕円形の果実が黒紫色に熟す。
イボタノキの樹皮には「イボタロウムシ」というカイガラムシの仲間が寄生し、雄の成虫が白い蝋(ろう)状物質を分泌する。これを採取して過熱し溶かして精製し常温で固めたものを「イボタロウ」と呼ぶ。生薬名は「虫白蝋(ちゅうはくろう)」。そのロウを溶かして皮膚にできたイボに垂らすとイボ取りに効き目があるという。イボタノキの「イボタ」もイボトリがイボタに転嫁したものといわれる。
イボタロウは戸の滑りを良くするため敷居に塗ったり、家具や柱の艶出し、織物の艶付け、刀剣の錆止めなどに使われてきた。「とばしり」や「とすべりのき」と呼ぶ地方もあるようだ。福島県会津地方はかつてイボタロウの主産地で、そのロウを採るためイボタロウムシをわざわざ飼育していたという。イボタノキは材が緻密で堅いことから印材や杖などにも利用された。「イボタの木で箸を作って飯を食うと短気がなおる」。尾張地方にはこんな言い伝えがあったそうだ。
イボタノキは古くから花物盆栽としても親しまれてきた。ライラックを接ぎ木するときの台木にもなっている。同属の仲間には暖地の海岸近くに分布する「オオバイボタ」、山地の日当たりのいい所に生える「ミヤマイボタ」、本州の兵庫県以西から九州中北部の山地に多い「サイゴクイボタ」、大きな円錐花序を出し「ハナイボタ」とも呼ばれる「ヤナギイボタ」などがある。