【6年間の成果を360°パノラマVRや3Dプリンターのレプリカで】
奈良大学博物館(奈良市)で企画展「モンゴル国の遺跡調査とデジタルアーカイブ」が開かれている(31日まで)。同大学は2009年から6年間、モンゴル科学アカデミー考古学研究所(現歴史考古学研究所)と共同で11世紀の契丹(遼)の城郭都市遺跡を調査するとともに、遺跡・遺物のデジタルアーカイブ化に取り組んできた。企画展はその成果を写真パネルや大型プロジェクター、3Dプリンターで作製したレプリカなどを通じて紹介する。
発掘調査したのは契丹国が1004年に「鎮州城」として設置したとみられるチントルゴイ城郭都市遺跡と周辺の窯跡。この城郭都市は東西650m、南北1250mの規模で、南北に城壁と堀を隔てて接した四角い2つの城が並んでいた。仏塔の基壇跡から寺院が4~5カ所あったと推測される。また同遺跡には6つの城門が確認されており、そのうち北城東門を発掘調査した。(上の写真は発掘前㊧と発掘後の北城東門跡)
北城東門は広場を挟んで内側に内門、外側に外門を構えていたとみられる。切石の基礎石列の上に直径約25cmのカラマツ属の木材が土台木として使われていたこと、内門の幅は6mだったことなどが明らかになった。モンゴルで契丹の城門の規模や構造が明らかになったのは初めてという。城郭都市周辺からは複数の窯跡を発見し、その窯の1つからは直径20cmの大型獣面文軒丸瓦が出土した。城内の宮殿や寺院などの大型建物に葺かれたものとみられる。
2012~14年の後半3年間は3次元計測と高精細画像を利用して、遺跡や遺物のデジタルアーカイブ化に取り組んだ。モンゴルでは遺跡の保存や保護があまり進んでおらず、消失の危機に瀕している遺跡を正確に記録として残すのが狙い。企画展では「ヘルレンバルスホト1の仏塔」(写真㊧)を「パノラマVR(バーチャル・リアリティー)」で展示中。仏塔は高さ16.5m、直径9m。その仏塔をマウス操作によって360度の全方向から大画面で見渡せ、拡大・縮小もできる。
モンゴルで出土した遺物は日本国内への持ち込みが制限されており、実物を展示することができない。このため企画展では3Dプリンターで作製したレプリカを実物の写真とともに展示している(写真㊨)。遺物の写真一覧から画面をクリックすると、その3次元レプリカが表示される「遺物のデジタル表示」も行っている。出土品の展示は今後、こうした考古学と情報工学が融合した新しい形の方法が増えてくるに違いない。