経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

門間一夫さんの愉快な床屋談義

2022年10月16日 | シリーズ経済思想
 門間一夫さんの『日本経済の見えない真実』の中で、最も感慨深かったのは、サービス業の代表として散髪を例に挙げ、需要が生産性を伸ばすことを分かりやすく説明したところ(p.101-3)だった。世間では、この「真実」が分かっていないために、緊縮財政で消費を抑圧しつつ、投資を産業政策で促進して、成長を向上させるという、分裂した戦略が、相反を知らぬまま、推し進められている。成功しない戦略にしがみつく姿は痛々しいほどだ。

………
 経営者からの「労働生産性を上げるには、どうすれば良いのか」という相談に、「賃金を上げることですね」と答えると、「何を言ってる」みたいな顔をされる。エコノミストとしては、賃金は付加価値になるから、当然の答でしかないが、経営者は、付加価値ではなく、モノやサービスの数量を増やすことをイメージしているので、ちょっと間抜けなやり取りが生じてしまうのである。

 例えば、美容室の労働生産性を上げるのなら、従業員のセンスアップを図り、高単価での散髪ができるようにするのが打ち手になる。それは賃金を上げることでもある。こうして、サービス業は、設備投資や研究開発とは、あまり関係なく、付加価値が増え、生産性も上がり、成長することになる。ただし、マクロ的には、高単価を払ってくれるお客さんのお金がどこから来ているかが問題になる。

 他の美容室のお客を奪っているだけなら、マクロ的な成長はないわけで、お客さんの消費が増えていないといけない。分かりやすい例だと、お客さんは自動車会社の人で、輸出で所得が増えたから、センスの良い散髪をするようになったというのなら、サービス業においても、付加価値が増え、生産性も上がり、成長したことになる。ここで大事なのは、投資ではなく、消費が成長をもたすという「真実」だ。

 ところが、政府が増税をして、輸出で増えた所得を吸い上げてしまうと、波及は途切れて、サービス業での付加価値、生産性、成長が消えてしまう。投資だけが成長をもたらすと信じ、消費を抑圧すると、成長は停滞する。日本が緊縮財政を始めたのは1997年からなので、それ以降、生産性が上がらず、成長も伸びなくなったのは、当然の成り行きだし、サービス業の生産性が低い理由もここにある。

(図)


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 今後の日本の成長について、門間さんは割と悲観的だが、アベノミクスの2013-18年に、設備投資は、平均2.7%もの「高成長」をみせている。設備投資と同じくらい、消費やGDPが伸びるのは普通のことで、アベノミクスのように、消費を抑圧して、成長を停滞させる方が異常だ。そこからすると、緊縮財政の頸木から逃れられれば、意外な「高成長」を見せるのではないかと考えられる。

 もっとも、「成長には投資、投資には金融緩和、緩和には緊縮財政」というドグマから脱するのは絶望的である。なにしろ、金利が投資や貯蓄を調整するという経済学の基本原理を部分的に修正しないといけなくなるのでね。アベノミクスの異次元緩和を主導したリフレ派とは、原理に忠実な人達なんだよ。門間さんの言う「見えない真実」とは、ドグマからは決して「見えない真実」ではないのかな。


(今日までの日経)
 高所得の75歳以上、保険料上げ。政府、電気代支援1月にも。0~2歳児世帯の支援制度。円、147円台後半 32年ぶり。外国人保護、善意頼み限界。10増10減法案「了承」。雇調金拡大の後始末 負債3兆円、返済に30年。大学院生「出世払い」で支援 年収146万円から返済案。社説・給付だけでない広範な少子化対策を急げ。


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