経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経済学の宇宙における無限と有限

2021年12月19日 | シリーズ経済思想
 コロナが収束して、飛行機で出かけられるようになり、旅のお供は、岩井克人先生の『経済学の宇宙』と相なった。文庫で追加された補遺の「不均衡動学の現代版に挑む」から読み始め、70歳にしてと不屈の探求心に驚きつつ、最初からひと巡りして、また吟味するといった具合である。経済をどういう枠組で理解するのか、同じ非主流派にある者として、いつもながら考えさせられる。

………
 岩井先生は、資本主義の特徴として、貨幣の存在と分権的な利益追求を挙げ、その二つを組み合わせると本質的に不安定になるとし、価格・賃金の硬直性こそが一定程度の安定性をもたらすとする。私ももっともだと考える。ただ、主流派からすると、貨幣がなきがごとく、滞りなく交換がなされ、単一の意思があるがごとく、情報が利用されるとして、効率的な経済が出現すると主張してくるように思う。

 分権的であっても、利益の追求を前提にする限り、主流派の帝国を崩すのは容易ではない。私は敗北主義者なので、利益を追求しないことにしようと逃げた。そうなると、理性的・長期的にも不利益を選び続ける行動を見つける必要があるが、保険では、期待値がマイナスの商品を買ってもらっている。人生が有限である以上、大きな損害を受けぬよう小さい不利益を選ぶことには価値があるのだ。

 あとは、設備投資の判断で、需要にリスクを感じると、機会利益を捨てるとするだけだ。現実の経営者はみんなそうだし、日本の設備投資が輸出とパラレルという実態の説明もつき、異次元緩和や成長戦略が効かない理由が明らかになり、需要の安定的管理が重要だと政策提言もできる。この程度で、私には十分である。岩井先生のように、自他ともにウルトラに合理的なら、リスク自体が消失する立論も在り得ると、悩んだりもしたが。

 私は、それが在っても、分権的だと破れやすいからいいんだよと誤魔化していたが、岩井先生は、選択肢が無限だから決定し得ないという形で理論的に払拭するのだから、凄いものである。私の方と言えば、設備投資に係るリスクについて、実際のデータを検証して、もしかしたらベキ分布で、平均も分散もないから、合理的期待も死すべき存在には無理だよねで、おしまいにしている。

(図)


………
 個々が利益を徹底的に追求すれば、ムダのない効率的な社会が実現するというのは、ある意味、同義反復である。本当に徹底しているのか、確かめることが大事なはずだが、少なくとも一時的でなければ、先験的に正しいとされる。そして、利益を加えるべく、金融緩和、規制改革、法人減税、安い政府が繰り広げられる。他方で、そのために緊縮をして、需要リスクを与えて、利益の追求を無効化させている。

 思想は政策に影響するのである。私も、昔、査読誌に非主流派の論文を出したこともあったが、案の定、「こんなものを出されても」という返しだった。その時は、「自分が査読する立場でもそうだよな」と思ったりした。自分がやりたいのは理論なのか、いや、世の中を良くしたいというのが原点なら、データ分析や政策の研究じゃないかなどと自らを慰めつつ、情けなくも思想との戦いは放棄してしまったのであった。


(今日までの日経)
 世界の穀物 中国買いだめ。保育所、地方で空き増加。来年度予算案107兆円台。中期防、初の5年30兆円。米中GDP、33年に逆転 50年には米が再逆転。


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