経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

人生の短さと国債と通貨のバブル

2021年05月30日 | シリーズ経済思想
 日経でお見掛けして以来、櫻川昌哉教授は慧眼の持ち主だと思っていたので、新著『バブルの経済理論』を書店で見つけたとき、齢だから分厚いのはきついけど、著者名だけで買ってしまった。むろん、期待どおりの中身の濃さであり、本コラムの見方とは違うが、むしろ、深く考えられた別の思索に出会うことこそ、最も喜びとするところだ。キーコンセプトは、「長期金利<名目成長率」が生むバブルの経済である。

………
 一つの謎は、日本の政府債務がGDP比270%という飛び抜けた巨大さなのに、インフレになるどころか、国債の長期金利がゼロに張り付いていることだ。本コラムの見方は、「設備投資は、収益率ではなく、需要に従ってなされる」という独自のものだから、大して謎でもなく、日銀がいくら金融緩和をしても、財政が緊縮で消費を冷やすので、設備投資ブームも物価上昇も起こらず、ゼロ金利は続くというものである。

 巨大債務と緊縮財政の同居は、矛盾に感じるかもしれないけれど、危機のときに大規模に出動し、回復し始めたら急速に締め、成長加速の芽を摘むのを繰り返せば、出来上がる。日本は、1997年以来、これをやってきたのであり、アベノミクスでは、外需に恵まれたため、それまで「ゼロ金利=ゼロ成長」であったものが「ゼロ金利<名目成長」になり、櫻川教授の概念に適合したわけである。

 世界的に見て、この四半世紀の新自由主義は、バブル狙いであった。金融緩和をすれば、資産価格が高騰するので儲かる。しかし、物価が上がりだすと続けられないから、「小さい政府」で緊縮したり、自由化で賃金を抑制したり、輸入を増やしたりが「正義」となった。金融は、雇用と消費を生み出す設備投資に使われては困るため、もっぱらITへと向かい、あとは、資産への投資を循環させるものへと劣化した。 

 ゼロ金利と巨額債務を危惧する櫻川教授の処方箋は、なかなか刺激的で、1%への利上げと、コロナ対策の早期撤収、12-13%への消費増税である。正直、これだと、実体経済への打撃が心配だ。むろん、ゼロ金利は、いずれは終わるものだから、国債への利払いを盤石にするため、利子配当課税を25%にして、利払増を税収増で賄える仕組みにしておく必要がある。消費よりITを含む資産への課税が先決だ。

(図)

※直近の名目GDPも、家計消費も、23年前の1997年より低いのだから、ゼロ金利もむべなるかな。

………
 バブルとは経済的に不合理なものだ。そのため、主流派経済学の枠組で理解するのは困難が伴う。そこで「長期金利<名目成長率」に着目した櫻川教授は非常に鋭い。そもそも、人間が不合理なのは、死せるがゆえで、短期的な存在だからであり、これが本コラムのキーコンセプトになっている。ゼロ金利が続く限り、国債と通貨のバブルは保ち得る。バブルが崩れる利上げは、いつ、どのような事情で起こるのか、それは見通せないが、永遠ではない。なぜなら、人間とは違い、国家は永遠であるはずなのに、この国は少子化で持続可能性を失っているからである。


(今日までの日経)
 賃上げ 8年ぶり2%割れ。米住宅価格、上昇急ピッチ。G7、積極財政の継続確認 財務相会議、成長を優先。緊急事態 来月20日まで。保育所、迫る「過剰時代」 利用児童25年にピーク。鉄鉱石や銅、中国介入で急落。オンライン診療、中国で医師争奪。


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