経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本がズレてるホントの理由

2014年05月19日 | 経済
 新書の気安さもあって、古市憲寿さんの『だから日本はズレている』を楽しく読ませてもらった。日本の今に責任がある「おじさん」の滑稽ぶりを軽妙に写している。ただ、どの世代にも、思い込みに走って空回りすることはあるもので、哀れ「おじさん」たちは、1997年以降、まったく経済を成長させられず、見るべき成果が出せなかったために、笑いのネタにされてしまったようである。

 古市さんが指摘するような、強いリーダーを待望したり、ことさら独自性を誇ったり、心の持ち様に還元したり、やたら新技術に期待したりということは、経済が不調で、国が傾きだすと、ままあることだ。雇用が厳しいと、「若者に期待する」と建て前を言っても、就活カーストや学歴主義が現実で、自由や革命は夢見る対象でしかない。それでも、ゼロ成長に踏みとどまる限り、現状維持はできているから、つつましく生活することに満足は見出せる。今は、そんな時代かもしれない。

………
 経済成長の原動力は設備投資であり、その設備投資は需要を見ながらなされている。したがって、需要を安定させれば、経済は勝手に成長してくれる。何とも単純な話だが、1997年以降の日本は、設備投資が出始めると、早々と緊縮財政に戻し、需要を抜いて、成長の芽を摘むことを繰り返してきた。もう少し我慢するだけで成功できるのに、あと一歩の加速が待てない。

 足元だって、アベノミクスで景気が回復し、労働需給が引き締まり、若者に偉そうなことを言っていた「ブラック企業」の経営者も宗旨替えせざるを得ないところまで来たのに、どうして、一気の消費増税というリスクを犯さなければならないのか。それも、自然増収で法人減税ができるのではないかと言われるくらい、財政に時間的余裕のある局面においてである。後世の人には理由が測りかねる次第だろう。

 結局、「○○だから日本はズレている」の答えは、「おじさん」たちの滑稽な所業の数々ではなく、誰もが正しいと疑わない「財政再建」という価値感にある。「正しい」ことにやり過ぎはないと信じ込み、本当にそれを達成するには、成長と両立させるための微妙なサジ加減が必要なことを無視してしまう。国を傾けるほどの要因は、「正しさ」にこそ潜んでいるものなのだ。

………
 さて、今週の日経ビジネスは、トマ・ピケティの『21世紀の資本論』を紹介している。過去と現在の分析は素晴らしいようだが、「どうすれば」に関心がある私にとって、政策案が「富裕層への課税」というのは物足りない。使われない資産は、課税せずとも、財政赤字で吸収し、有効に使うことは可能である。それで経済成長が達成されれば、資産価値を高めることにもなって、富裕層の利益にもなる。

 問題は、富裕層は、課税を嫌うだけでなく、財政赤字の拡大にも反対なことだ。インフレにまでなると、資産価値が減ってしまうから、当然である。そうならないよう、国債の国内消化原則の確立、物価上昇に連動した消費増税の仕組み、金利上昇を補える利子や法人課税の整備が必要だ。つまり、財政赤字を家計と同一視して罪悪と思うのではなく、欠かせぬものとして、管理できる制度設計が大事である。

 また、財政赤字の使い途として、人的「投資」になるよう、社会保障制度を変えていくことも必要である。特に、少子化対策は極めてリターンが大きい。財政再建を優先し、人口を減少させ、経済を先細りにして、ますます財政を苦しくする愚は避けたい。少子化対策は、老いてからもらう年金を、子育て期に前倒しで給付するだけで可能なことだから、「社会保障は経済の重荷」のような先入観を捨てることが鍵になる。

………
 日本の「おじさん」たちも、海外の思想家も、金融と格差の拡大に直面し、再分配をいかにするかという問題を、政治的にも経済的にも抱える中で、実のところ、財政赤字の「再定義」に苦しんでいるわけである。難問を前に、「おじさん」たちは空回りし、最高に知的な人たちも、なかなか「正しさ」を超えられずにいる。まあ、別に解決しなくても、破綻が迫るほどでもないし、衰退を楽しむくらいはできるんだがね。いずれにせよ、その時分には、カズより年長の筆者は『生きてないよ』ではある。

(昨日の日経)
 日本車8社で新エンジン。科学研究の公正さ・仮説よりデータ直視・大隅典子・北沢宏一。
(今日の日経)
 イオンが食品スーパー再編。核心・不本意な成長、財政はいずれクラッシュと元主計官。

※「いずれ」なんて誰でも言える。他方、「消費税率引上げ後の消費動向等について」は6週目に入ったが、家電も飲食料品ものマイナス幅(休日調整後)は縮まらないままだ。

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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2014-07-31 17:02:57
財務省の連中はこの状況の元凶と言えるくらいすべきことの真逆ばかりしてきてるがなー。

例えば消費税は
1.同一の損益計算書の中で消費税が徴収された後に法人税が徴収されるので消費税は法人税収を削るだけで財源にならない。
2.消費税はつまるところGDP税であり、名目GDPを直接削る。
3.消費税は全額予算がついて使われているのにかかわらずそのGDPへの影響は税率*-0.6

こんなの自明レベルで財政不健全化要因でしかないことがわかるはず。
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Unknown (asd)
2014-05-19 11:01:48
正しさ重視といったら法学部出身が思い浮かびます。
で、法学部と言ったら財務省ですね。
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