経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・オリンピックまでにしたかったこと

2021年07月25日 | 経済(主なもの)
 日銀副総裁となって「リフレ」によるデフレ脱却に取り組み、2%の物価安定化に失敗した岩田規久男先生は、新著『日本型格差社会からの脱却』の中で、緊縮財政が金融緩和を相殺したとして、赤字縮小を急ぐなとする。これは、言うのは簡単だが、相当な意志を持ち、数字を把握し、戦略的に政策化しないと、とても防げない。あえて特別な対応をしないと、景気回復の芽を摘むほどの急速な緊縮に陥る構造を、日本は持っているからであり、それが、1997年以来、繰り返されてきた歴史でもあるからだ。

………
 需要管理の基本は、税収を的確に把握することだが、7/21に公表された「中長期の経済財政に関する試算」では、2022年度の国の税収を61.4兆円としていて、前々年度から+1.0%しか増えていない。この間の名目成長率は5.6%、企業業績見通しの経常利益が2年連続2桁増の予想であることを踏まえると、いかにも少ない。これらを基にすると、国と地方を合わせた税収の上ブレが年9~10兆円にも及ぶ計算になる。

 その後の税収を名目成長率で伸びると想定したものが下図である。ご覧のように、財政再建の目標を1年早く、過剰達成してしまう。そもそも、低成長率のベースラインケースが示すとおり、収支がGDP比-1%程度なら、国・地方の公債等財高のGDP比は安定するため、緊縮を焦る必要は、まったくない。加えて、公的年金は、既にGDP比0.7%程の黒字だから、一般政府全体で見ると、もっと収支は良いのである。

 急速な緊縮になるのを防ぐには、税収の上ブレを還元する必要がある、その手立てが補正予算だが、3~4兆円は例年の規模であり、これを超えないと支出が縮小してしまう。税収上ブレで緊縮にならないよう上乗せすると、景気復調と思われている中で、常識外れの規模にせざるを得ない。結局、常識的な対応で緊縮がなされ、成長にブレーキがかかり、デフレから脱却できなくなるのである。

(図)


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 岩田先生は、新著の中で様々な政策提言をしているが、デフレと格差からの脱却の焦点となるのは、適正な需要管理をする財政の戦略である。補正予算だから一時的なことにしか使えないと、毎年、恒久的にバラ撒くのではなくて、日本の経済社会の持続可能性を取り戻すために、格差を埋めて出生率の回復に直結するよう、若い非正規への育児休業給付や社会保険料軽減を実現しなけれはならない。

 前者は、わずか0.7兆円でできるし、後者も、たった2兆円である。補正予算を割り当てるでも良いし、税収上ブレを財源にするのも良い。要するに、補正は消え物だけ、税収増は全部緊縮という財政当局の手前勝手な拘束から脱し、社会の再生と経済の成長に欠かせない使途に充てるわけである。こうして、再分配の制度を整えない限り、需要管理をバラ撒きに頼らざるを得ない。

 東京オリンピックが開幕したが、そこに見せたい日本はあるのか。7年前、「ニッポンの理想・2兆円でできる社会」を記し、若者が将来に希望を持てる社会にして、2020年を迎えようと訴えたが、現実には、十年一日の緊縮財政で、再分配の仕組みも整わぬうちにコロナ禍に見舞われ、呻吟するはめとなった。今、平和の祭典を眼前にして、無為に流れた時間を思うのみである。


(今日までの日経)
 東京五輪 開幕 コロナ下 大半無観客。五輪の旗印 漂流映す。東南ア経済 コロナで打撃。飲食5割超、時短応じず。無観客は不可避だったか。


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