困ったときに子守りをし合う互助会を作り、サービスを受けるばかりにならないように、会が利用券を発行して、サービスがなされた都度、受け渡しをするルールとする。この場合、会を円滑に運営するコツは、利用券を実施量より多めに発行することだ。なぜなら、いざというときに備えて、利用券を退蔵しておこうという性向があるからだ。ここで重要なのは、利用券と実施量は、二分される別の存在になるということである。
………
むろん、以上は、現在の経済が貨幣経済と実体経済に二分されていることの比喩である。運営の難しさは、退蔵の性向が需要の動向によって変化するところだ。企業が需要にリスクを感じ、お金を貯め込み設備投資を抑えると、資本も人材も十分に使われない不合理な状況に陥る。これが不況であり、その処方箋は、財政を使って貨幣を膨らませ、需要を補うことによって、企業の不合理な行動を癒すものである。
子守り互助会であれば、利用券をより多く配るようにする。券は「無限」に刷ることが可能だし、会の負債と会員の債権は、会計的にバランスしているから、何の問題もないとするのは、MMT的な見方かもしれない。ただし、配り過ぎによる利用の拡大で、子守りの提供者が見つけ難くなり、「券を2倍渡すからウチに」となれば、インフレの発生である。つまり、MMT的な見方の貨幣上の絶対的な正しさと、実体への影響の度合いは別の問題になる。
MMT的な見方の本当の価値は、財政の無限性やインフレの惹起といった極端にあるのではなく、実施量に対する利用券の倍率は一定以内でなければならないとか、倍率の増大傾向は発散に結びつくゆえに忌避すべきだとか、硬直的な「財政規律」は無益だというところにある。倍率が増大するに従い、管理には細心の注意が必要になるが、退蔵の循環的、あるいは構造的な度合いによって、柔軟に対応すべきなのである。
結局、経済運営の上のポイントは、利用券を増大させたときに、どれだけ実施量が動くかの見極めになる。ケインジアンが昔から悩んできた財政出動の質と量の問題である。財政の使い方も様々で、法人減税をするのと、貧困層に給付するのでは、需要への影響の度合いが違う。また、急激な執行をすると、消化し切れず、価格上昇を招くばかりになる。そして、見失ってはならないのは、「需要リスクを癒し、合理的行動を導く」という本質である。
………
リフレ派の失敗は、貨幣を膨張させれば、実体も良くなると、ナイーブに考えたところにある。どのような経路で実体につながるかの政策論が不十分だった。もっとも、金融緩和による円安が飛躍的な輸出増に結びついていたら、成功を収めていたかもしれない。実際は、かつて円高で苦しんだ企業は踊らず、大して輸出が伸びない一方、緊縮財政によって需要を削り取ったから、アベノミクスは、内需が伴わない弱々しいものになった。
MMT派も、実体へのつながりを政策論として緻密に考えないと、リフレ派と同じ過ちをすることになる。理論的に財政上の問題はないから、政策論は適当で済むものではあるまい。また、実態として、日本の財政は、きつめの緊縮なので、財政規律派とは、緩めの緊縮という政策的妥協をする余地もある。よりマシな政策の実現には、多数派の形成が必要なので、理論的な純化路線を歩んでも、政権トップの心でもつかまない限りは、実現性は乏しくなる。
しかも、MMT派とて、なぜ財政出動が効くかまで分かっているとは思えない。本質は需要の変動に対する不合理な行動だから、緊縮で需要を抜くと経済のパフォーマンスが悪くなるのと同様、膨らませた需要で行き過ぎた設備投資がなされ、禍根となる場合もある。そうした状況にとどまる観念論は脇に置き、実用的な政策の知見を広めようとするのが本コラムの趣旨である。もっとも、「非正規への育児休業給付を実現するために7000億円の歳出拡大をしよう」といった尖がってない提案は、刺激が求められる政治談義で耳目を集めたりはしないわけだが。
(今日までの日経)
75歳以上世帯が1/4 2040年推計。増税延期発現、憶測呼ぶ。ベビーシッター予約2倍。経団連、通年採用に移行。「隠れ増税」限界に 保険料増、賃上げ効果4割圧縮。
※金曜に3月の全国のCPIが出たが、サービスの上昇が衰えて来たように見える。ここにも景気後退が及びつつあるのかもしれない。さて、今度の週末は、3月指標の公表だ。1-3月期GDPがプラスで踏みとどまれるか注目だ。
(図)
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むろん、以上は、現在の経済が貨幣経済と実体経済に二分されていることの比喩である。運営の難しさは、退蔵の性向が需要の動向によって変化するところだ。企業が需要にリスクを感じ、お金を貯め込み設備投資を抑えると、資本も人材も十分に使われない不合理な状況に陥る。これが不況であり、その処方箋は、財政を使って貨幣を膨らませ、需要を補うことによって、企業の不合理な行動を癒すものである。
子守り互助会であれば、利用券をより多く配るようにする。券は「無限」に刷ることが可能だし、会の負債と会員の債権は、会計的にバランスしているから、何の問題もないとするのは、MMT的な見方かもしれない。ただし、配り過ぎによる利用の拡大で、子守りの提供者が見つけ難くなり、「券を2倍渡すからウチに」となれば、インフレの発生である。つまり、MMT的な見方の貨幣上の絶対的な正しさと、実体への影響の度合いは別の問題になる。
MMT的な見方の本当の価値は、財政の無限性やインフレの惹起といった極端にあるのではなく、実施量に対する利用券の倍率は一定以内でなければならないとか、倍率の増大傾向は発散に結びつくゆえに忌避すべきだとか、硬直的な「財政規律」は無益だというところにある。倍率が増大するに従い、管理には細心の注意が必要になるが、退蔵の循環的、あるいは構造的な度合いによって、柔軟に対応すべきなのである。
結局、経済運営の上のポイントは、利用券を増大させたときに、どれだけ実施量が動くかの見極めになる。ケインジアンが昔から悩んできた財政出動の質と量の問題である。財政の使い方も様々で、法人減税をするのと、貧困層に給付するのでは、需要への影響の度合いが違う。また、急激な執行をすると、消化し切れず、価格上昇を招くばかりになる。そして、見失ってはならないのは、「需要リスクを癒し、合理的行動を導く」という本質である。
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リフレ派の失敗は、貨幣を膨張させれば、実体も良くなると、ナイーブに考えたところにある。どのような経路で実体につながるかの政策論が不十分だった。もっとも、金融緩和による円安が飛躍的な輸出増に結びついていたら、成功を収めていたかもしれない。実際は、かつて円高で苦しんだ企業は踊らず、大して輸出が伸びない一方、緊縮財政によって需要を削り取ったから、アベノミクスは、内需が伴わない弱々しいものになった。
MMT派も、実体へのつながりを政策論として緻密に考えないと、リフレ派と同じ過ちをすることになる。理論的に財政上の問題はないから、政策論は適当で済むものではあるまい。また、実態として、日本の財政は、きつめの緊縮なので、財政規律派とは、緩めの緊縮という政策的妥協をする余地もある。よりマシな政策の実現には、多数派の形成が必要なので、理論的な純化路線を歩んでも、政権トップの心でもつかまない限りは、実現性は乏しくなる。
しかも、MMT派とて、なぜ財政出動が効くかまで分かっているとは思えない。本質は需要の変動に対する不合理な行動だから、緊縮で需要を抜くと経済のパフォーマンスが悪くなるのと同様、膨らませた需要で行き過ぎた設備投資がなされ、禍根となる場合もある。そうした状況にとどまる観念論は脇に置き、実用的な政策の知見を広めようとするのが本コラムの趣旨である。もっとも、「非正規への育児休業給付を実現するために7000億円の歳出拡大をしよう」といった尖がってない提案は、刺激が求められる政治談義で耳目を集めたりはしないわけだが。
(今日までの日経)
75歳以上世帯が1/4 2040年推計。増税延期発現、憶測呼ぶ。ベビーシッター予約2倍。経団連、通年採用に移行。「隠れ増税」限界に 保険料増、賃上げ効果4割圧縮。
※金曜に3月の全国のCPIが出たが、サービスの上昇が衰えて来たように見える。ここにも景気後退が及びつつあるのかもしれない。さて、今度の週末は、3月指標の公表だ。1-3月期GDPがプラスで踏みとどまれるか注目だ。
(図)
賛同しております。
> 理論的な純化路線を歩んでも、政権トップの心でもつかまない限りは、実現性は乏しくなる。
だから間違った前提の話をしても良いとなってしまったら、それこそリフレ派ではないですか。
> MMT派とて、なぜ財政出動が効くかまで分かっているとは思えない
何を仰りたいのかわかりません。
誰が負債と債権が会計的にバランスしているから問題ないなんて言ったんですか?
バランスしない会計なんて存在しませんよ。MMTは、会が赤字を負うからこそ、会員が券の保持という黒字を得ることが出来る、などの事実を指摘してるんです。
誰がMMTはインフレに無頓着と言ったんですか?
MMTは政府支出過多のリスクはインフレだと口酸っぱく主張しています。
誰がMMT的な見方の本当の価値は発散の忌避だなんて言ったんですか?
財源問題が無い以上、MMTは財政赤字の大小そのものを問題視などしません(金融機関への分配が増えることについては議論がありますが)。
誰がMMTは政策論は適当で済むなんて言ったんですか?
JGPの話は無視ですか? それともJGPが適当だと言いたいんですか?
MMTは筆者さんも主張されているオールドケインズ的な総需要管理主義の問題点を踏まえているからこそポストケインズ的主張をしているわけですが、それが適当だと言いたいのですか?
おかしなMMTもどきを読んでいるのだとしたら、そんなもの読まずにこちらをどうぞ
MMT 日本語リンク集
http://econdays.net/?p=10126