経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

「愚行」の後日談

2012年08月15日 | 特別版
 最近になって、リンクを付ける技を覚えたところ、「壮大なる愚行」の閲覧が増えていた。こんなことなら、ちゃんと手直しをしておけば良かった。「愚行」には、後日談があり、「貯蓄(純)」を使うより、「純貸出/純借入」が適当ではないかという御指摘をいただいていた。それで、今更ながら、若干の手直しをし、その趣旨について、普通の人には「何のことやら」というオタクな話を記しておく。

………
 実は、どちらの数字を使うか、筆者も少し迷ったのである。それゆえ、「良い質問ですねぇ」とばかり、ウンチクを語ると、次のとおりになる。まず、「貯蓄(純)」とは、何なのか。ごく簡単に言うと、税金や保険料を集め、それを行政サービスや給付に使った残りである。集めた以上に使うと、むろん赤字ということになる。

 ここで留意すべきは、「貯蓄(純)」には、固定資本形成という名の公共事業への支出がカウントされていないことである。他方、「純貸出/純借入」には、公共事業がカウントされている。だから、財政の姿により近い数字として、「純貸出/純借入」を使うのが適当ではないかという意見も出てくるわけである。

 とは言え、「純貸出/純借入」にも短所がある。カウントされているのは、公共事業への支出そのものではなく、固定資本減耗という減価償却分を差し引いたものだ。これは社会資本の蓄積につれて増すから、年を経るごとに増えるバイアスがかかる。また、「純貸出/純借入」は、資本移転が加味される問題もある。そのため、いわゆる「埋蔵金」の発掘があったりすると、大きくフラついてしまう。この特殊要因によって、最近6年ほどのデータは、傾向が読み難くなっている。

 こうしたことがあるので、「純貸出/純借入」を加工し、「減耗」を除くなどして数字を作ることも考えたが、それでは、恣意性を疑われてしまう。「愚行」の意図は、「GDP統計という基本データに関心を持ってもらうこと」にあるので、在りのままの数字を使って説明したかった。こうした諸々について考えを巡らした上で、「貯蓄(純)」という最も基礎的な数字を選んだ次第である。

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 それでは、「貯蓄(純)」を使うと見えなくなる、公共事業と財政赤字の関係については、どう考えたら良いか。それは、GDP統計が公的な固定資本形成を別立てにしている趣旨にも関わるものである。つまり、同じ財政赤字を出し、借金をして支出することには変わりはないけれども、公共事業は、社会資本という資産を残す「投資」であって、他の行政サービスのように、その時限りでなくなる政府消費とは違いがある。

 こうしたこともあって、昔は、財政赤字について、資産を残す建設国債は良いが、借金しか残らない赤字国債は問題だという議論もなされていた。もし、国の財政赤字が公共事業への投資のみを理由としたものであったとしたら、財政赤字に対する危機感はまったく違ったものになっていただろう。むろん、公共事業を膨らませることでも、金利上昇やインフレといった財政赤字の弊害は起こり得るのだが、社会福祉を削減するのとは違い、遥かに調整はしやすいのである。

 というわけで、数字には一長一短があるから、興味のある人は、いろいろと加工を試みるのも良かろうと思う。もちろん、固定資本形成を加えれば、赤字は大きくなるが、日本の財政当局が、公的年金の大規模な黒字をわきまえず、赤字と黒字を並行させるという不思議な経済運営をしてきたことに間違いはないし、また、実態以上の危機感を持ち、1997年に、ハイリスクの急進的な緊縮財政を行って、却って政府部門全体の収支構造を悪化させ、ひいては日本経済を破壊するような愚行をしでかしたことにも変わりはない。

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 蛇足だが、海外では、国・地方の財政に社会保障も連結したものを見ながら、経済運営をすることは当たり前になっている。連結したら別の姿が見えると驚くこと自体、いかに日本が前時代的なままにあるかの証拠である。「愚行」で伝えたかったことは、経済運営は全体を見てしなさいという、ごく平凡なものである。

 ところで、先日、厚労省から厚生年金の収支決算の概要が発表された。歳入歳出の差引残は3400億円、積立金受入を除くと1.1兆円の収支改善である。今、これを聞いて、どう思ったかな。「収支改善」は、年金財政には結構だろうが、震災による経済ショックの中で、家計にはデフレ圧力が加えられていたことも意味する。そうした視点に気がついたかね? 全体を見るとは、こういうことなのである。

(今日の日経)
 ソニーのテレビ販売2割減。超小型車の半額を補助。伸びる百貨店。けん引役の独仏も減速、ユーロ圏マイナス成長。消費増税・強まる歳出膨張圧力。概算要求基準17日閣議決定へ。米の原発新設に核廃棄物で冷や水。トルコ・高まる購買力。海上の高速通信を全船で。4-6月期決算・非製造業の経常利益7%増。経済教室・民意のゲーム理論・坂井豊貴。

※ユーロ圏はどうやって財政赤字を減らすつもりなのかね。2014年4月までに破綻が明らかになってほしいな。※基礎年金分の1%にしておけばこんなことには。※社会保障費の自然増が少ない理由を知りたいものだ。※輸出主導の中国モデルが挫折して、トルコやインドネシアの内需モデルが注目されるだろう。インフレ対策に増税は良。※売上、利益とも好調。成長が期待できる。むろん税収増も。

※坂井先生の論考も良かったんだが、世代格差論を引くとは。あちこちの若手研究者に誤謬が広がっているのは胸が痛む。まあ、2011/11/28でも読んでくれ。政治学者にも経済政策の良し悪しが分かるセンスが必要だと思う。

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