経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・賃金伸び悩みの原因とは

2019年02月10日 | 経済(主なもの)
 売上が立たねば、賃金も上げられない。政府が緊縮を敷き、GDP比で1%超も資金を吸い上げていたら、内需が伸び悩むのも道理であろう。政府ができることは、緊縮を加減して内需を伸ばし、賃上げを促すことだが、政府予算案の緊縮度合いについては、ロクに議論もされず、去年の実質賃金がマイナスだったか否かで白熱しているようだ。アベノミクスが、輸出を増やした反面、内需を低迷させたことを踏まえ、どう直すかの主張があって然るべきだと思う。

………
 2/1に公表された国の税収の12月実績によれば、2018年度の累計額は、前年同月比+4.2%となっており、補正予算の見込む税収額59.9兆円(前年度決算比+1.9%)を大きく上回るのは、確実な情勢である。その分だけ予定外の緊縮となるわけで、本コラムの予想額は、法人税の増加率が企業業績見通し並みになるという設定で、61.1兆円まで上ブレすると見ており、緊縮幅は1兆円超に及ぶだろう。

 同じく緊縮の状況を、日銀・資金循環統計の一般政府の資金過不足で見ると、2017年にGDP比-3.5%の赤字だったものが、2018年は、最新の7-9月期までの4期移動平均の水準が維持されると仮定すれば、-2.1%まで改善すると見込まれる。昨年は、輸出が衰える中、内需も緊縮で低迷させたわけで、実質成長率が0.7%程に落ちるのも仕方あるまい。してきたことに照らせば、賃金の伸び悩みを嘆くより、赫々たる財政再建を誇るべきところだ。

 1/30に公表された「中長期の経済財政に関する試算」では、基礎的財政収支の赤字をゼロにするのが、目標の2025年には1年遅れるものの、従来より1年早まることが示された。しかも、「試算」の税収は、実勢より低い予算額を出発点に計算されているため、税収の上ブレによって、基礎的収支は、更に上方へシフトする可能性が高い。本コラムの税収予想を基にすると、下図の緑線のとおりで、2024年には、財政再建の目標を前倒しで達成できることが分かる。

 税収予想については、2018年度はともかく、2019年度は不確定要素が多いものの、少なくとも、現下の財政状況には多少の余裕があり、景気失速の恐れを犯してまで、緊縮を進める必要はない。つまり、緊縮を緩め、非正規への育児休業給付を実現して出生率を高めるといった施策への還元は十分可能であり、そうした議論こそが内需を高め、賃金上昇を促進することにつながるのである。

(図1)


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 一方、緊縮は、国・地方の財政ばかりでなく、2019年度は、社会保険でも、しっかり行われる予定である。日本では、政府全体の収支は視野の外に置くため、こうした事実は、指摘されることもない。社会保険で大きな黒字を出すのは年金なので、1/28公表の「平成31年度予算の説明」から、厚生年金の収支を取りだすと下図のとおりとなる。前年度より更に収支差が狭まり、約0.4兆円の緊縮になっていることが分かる。

 保険料収入は、前年度比+0.6兆円(+1.9%)と、2018年度が+1.2兆円(+3.3%)だったことを踏まえると、やや控えめな設定である。他方、保険給付費等は、前年度比+0.4兆円と、2018年度の+0.8兆円から半減しており、支給開始年齢引上げの効果がうかがわれる。過去の傾向から、保険料収入等は低めに、保険給付費等は高めに見積もられていると考えられるので、決算ベースでは、2018年度に収支が均衡し、2019年度は黒字が拡大すると予想される。

 厚生年金の給付額については、2018年の消費者物価上昇率が+1.0%だったのに対し、2019年の改定は+0.1%に抑制され、実質的に0.4兆円ほど目減りする。物価指数の上昇幅は、2012年から+5.1にもなるのに対して、年金額の改定幅の累計は、-0.8と逆に下がっている。負担と給付のバランスを取るために必要なこととは言え、60歳以上の世帯主が半数を超える現状では、賃金が上昇しても消費が伸びない原因の一つである。

 現役世代の減少を踏まえれば、年金給付の抑制はやむを得ないにせよ、その分、政府全体での財政収支の健全化が進むわけだから、これを活かして、少子化対策を拡大する発想が求められる。緊縮の一本槍では、成長を抑制するだけになるため、成長の基盤となる人的投資に還元し、出生率を高めれば、ストレートに年金給付の改善につながる。そうして成長が高まるなら、財政再建も早まるというものだ。

(図2)


………
 金融緩和によって、輸出や民間の建設投資を高め、雇用の量を増やしたことは、アベノミクスの成果と言えよう。他方、緊縮財政によって、財政再建を進め、内需を弱めたことは、利点でもあり、欠点でもある。世界経済の減速によって、輸出の雲行きが怪しくなる一方、財政収支は、既に大きく改善しているのだから、現実主義に基づいて、軌道修正を図るべきである。その具体策の提案が求められる。


(今日までの日経)
 貿易戦争 デフレ圧力招く。超高級車販売 5年で国内3倍。自動車・非鉄、2割減益 中国減速、下方修正相次ぐ。欧州景気、減速鮮明に。核条約の死 日本の選択は。中国企業の失速鮮明 18年、1000社減益 赤字も1割。


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