先日、読売新聞の消費税増税のキャンペーン記事で、世代間の格差論が大書きされていた。とうとう日経から読売にまで伝染したか。財政当局のプロパガンダには、本当に舌を巻く。世代間に格差があるように見えるのは、世代によって出生率に違いがあるためで、格差を縮めるには、少子化を緩和するしかないのだが、増税の根拠にされてしまっている。
世代間格差論の誤謬については、11/28「世代間の不公平を煽るなかれ」とか、12/3「世代間負担論の到達点」とかを読んでいただきたいが、匿名の本コラムに不安ならば、慶大の権丈善一先生のHP(2/7)を見てもらえば良い。権丈先生の努力で、年金の「抜本改革」の幻想は、ようやく打ち払われようとしているが、今度は、世代間の格差論で日本は迷走するのかね。何ともやり切れない思いがする。
今週の日経の経済教室では、「民主主義の課題」が特集されていたが、日本の権力構造については、意外と認識されていないのではないか。こういうものは、内にいると、かえって分からなかったりする。むしろ、米国の共和党がどういう勢力と結びつき、どんな政治経済の思想を持っているかを答える方が日本人には簡単かもしれない。
日本の権力の中心には、財政当局が居る。むろん、財政当局の権力は万能ではないから、連合を形成する必要がある。その第一の対象は経済界であり、それゆえ、どんなに財政が苦しくても法人減税は例外だし、無益な為替介入だって、御要望とあらば、果敢に試みることになる。そして、情報のコントロールによって、新聞と一部の学者を操り、消費増税こそが日本を救うと、巧みに世論を形成していく。
問題なのは、財政当局が進めようとする「財政再建路線」は急進的過ぎて、さまざまな摩擦を起こしていることである。例えば、復興増税騒ぎである。大規模増税の野心を抱かず、法人減税の見送りと、金利と定率償還分の3000億円程度の所得増税を最初から打ち出していれば、被災者を冬まで待たせたり、政治を混乱させることもなかったろう。
現在の社会保障と税の一体改革も同じである。使途が極めて明確な年金の国庫負担1/2の財源確保に的を絞り、2014年から消費税を1%だけ上げるとするなら、国民的合意は容易なはずだ。それ以上は、成長率を見つつ、2016年以降に再度引き上げるとすれば良い。それを一気に3%も上げ、その1年半後には更に2%が必要で、その後も、どこまで上げるか分からないと言うのでは、不安が広がるのは当たり前である。
消費税は、ある程度の成長率がなければ、引き上げても、経済を壊すだけに終わる。逆に、インフレ率が高まってくれば、機動的に引き上げなければならない。日本が欧米に比べて消費税率が低いのは、政治や国民がだらしないと言うより、長くデフレに沈んでいるからである。一番いけないのは、経済状況に合わせようとせず、計画経済的に決め打ちすることだ。
今週の日経ビジネスは、「消費税30%の足音」として、増税時の企業の対応策を示す特集を組んだが、これを見て、前向きに対応しようと思う経営者がどれほど居ろうか。正直、「これは無理」という印象だろう。中小の小売業に至っては、絶望的な感じさえしたに違いない。経営者には、今のデフレ経済の感覚しかないのだから、想像を絶する痛みに思えるはずだ。
マスコミでは「決められない政治」などと揶揄されるが、政治に軋轢が生じるのは、財政当局の路線が急進的すぎるからである。その急進さを「待ったなし」などのフレーズで覆い隠し、過剰に政治に責任を押し付けているように見える。しかし、その無理は、国民の生活感覚まではごまかせないから、大衆的な政治家ほど、訳も分からないまま反抗するし、ポピュリズムが国民に蔓延することにもなる。
戦前の政党政治の崩壊は、大蔵官僚出身の浜口雄幸が金解禁という無意味な経済政策のためにデフレを敷き、国民に塗炭の苦しみを与えて、政党への信用を失墜させたところから始まっている。金解禁は、プロパガンダよって国民に歓迎されたが、不況の現実は、瞬く間に失望へと変わり、政党政治に代わるものが待望されるようになった。世代間の不公平を唱え、一気の増税しかないと叫び、政治や国民がだらしないから実現しないと批判するのでは、政治を壊すだけではないか。
本当に世代間格差を縮めたければ、カネを使って少子化対策を強化すれば良い。それも、基本内容の「雪白の翼」で示したように、年金数理を応用すれば、ほとんど負担増なしに実現できる。何も、消費増税で高齢世代を痛めつけることもないし、それができないと政治が責められるいわれもない。しかし、日本には、それでは困る権力構造がある。まあ、そういうことなのだ。筆者だって、周囲に迷惑が及ぶかもしれないと思うと権力は怖い。もし、本コラムが読まれて、世代間の不公平論を跳ね返すことができれば、それこそ、日本でも、「ネットで革命」ということかな。なんてね。
(今日の日経)
AIJ問題・信託・企業年金も調査。ハイブリッドに死角、車もガラパゴス。年金交付国債が焦点に。社説・役立つ番号制度。ドラギ総裁、火消しに手腕。米大統領選・無党派層に選択肢がない。中外・40年後のあさま山荘考。読書・若年層活かし活力・福田慎一。
世代間格差論の誤謬については、11/28「世代間の不公平を煽るなかれ」とか、12/3「世代間負担論の到達点」とかを読んでいただきたいが、匿名の本コラムに不安ならば、慶大の権丈善一先生のHP(2/7)を見てもらえば良い。権丈先生の努力で、年金の「抜本改革」の幻想は、ようやく打ち払われようとしているが、今度は、世代間の格差論で日本は迷走するのかね。何ともやり切れない思いがする。
今週の日経の経済教室では、「民主主義の課題」が特集されていたが、日本の権力構造については、意外と認識されていないのではないか。こういうものは、内にいると、かえって分からなかったりする。むしろ、米国の共和党がどういう勢力と結びつき、どんな政治経済の思想を持っているかを答える方が日本人には簡単かもしれない。
日本の権力の中心には、財政当局が居る。むろん、財政当局の権力は万能ではないから、連合を形成する必要がある。その第一の対象は経済界であり、それゆえ、どんなに財政が苦しくても法人減税は例外だし、無益な為替介入だって、御要望とあらば、果敢に試みることになる。そして、情報のコントロールによって、新聞と一部の学者を操り、消費増税こそが日本を救うと、巧みに世論を形成していく。
問題なのは、財政当局が進めようとする「財政再建路線」は急進的過ぎて、さまざまな摩擦を起こしていることである。例えば、復興増税騒ぎである。大規模増税の野心を抱かず、法人減税の見送りと、金利と定率償還分の3000億円程度の所得増税を最初から打ち出していれば、被災者を冬まで待たせたり、政治を混乱させることもなかったろう。
現在の社会保障と税の一体改革も同じである。使途が極めて明確な年金の国庫負担1/2の財源確保に的を絞り、2014年から消費税を1%だけ上げるとするなら、国民的合意は容易なはずだ。それ以上は、成長率を見つつ、2016年以降に再度引き上げるとすれば良い。それを一気に3%も上げ、その1年半後には更に2%が必要で、その後も、どこまで上げるか分からないと言うのでは、不安が広がるのは当たり前である。
消費税は、ある程度の成長率がなければ、引き上げても、経済を壊すだけに終わる。逆に、インフレ率が高まってくれば、機動的に引き上げなければならない。日本が欧米に比べて消費税率が低いのは、政治や国民がだらしないと言うより、長くデフレに沈んでいるからである。一番いけないのは、経済状況に合わせようとせず、計画経済的に決め打ちすることだ。
今週の日経ビジネスは、「消費税30%の足音」として、増税時の企業の対応策を示す特集を組んだが、これを見て、前向きに対応しようと思う経営者がどれほど居ろうか。正直、「これは無理」という印象だろう。中小の小売業に至っては、絶望的な感じさえしたに違いない。経営者には、今のデフレ経済の感覚しかないのだから、想像を絶する痛みに思えるはずだ。
マスコミでは「決められない政治」などと揶揄されるが、政治に軋轢が生じるのは、財政当局の路線が急進的すぎるからである。その急進さを「待ったなし」などのフレーズで覆い隠し、過剰に政治に責任を押し付けているように見える。しかし、その無理は、国民の生活感覚まではごまかせないから、大衆的な政治家ほど、訳も分からないまま反抗するし、ポピュリズムが国民に蔓延することにもなる。
戦前の政党政治の崩壊は、大蔵官僚出身の浜口雄幸が金解禁という無意味な経済政策のためにデフレを敷き、国民に塗炭の苦しみを与えて、政党への信用を失墜させたところから始まっている。金解禁は、プロパガンダよって国民に歓迎されたが、不況の現実は、瞬く間に失望へと変わり、政党政治に代わるものが待望されるようになった。世代間の不公平を唱え、一気の増税しかないと叫び、政治や国民がだらしないから実現しないと批判するのでは、政治を壊すだけではないか。
本当に世代間格差を縮めたければ、カネを使って少子化対策を強化すれば良い。それも、基本内容の「雪白の翼」で示したように、年金数理を応用すれば、ほとんど負担増なしに実現できる。何も、消費増税で高齢世代を痛めつけることもないし、それができないと政治が責められるいわれもない。しかし、日本には、それでは困る権力構造がある。まあ、そういうことなのだ。筆者だって、周囲に迷惑が及ぶかもしれないと思うと権力は怖い。もし、本コラムが読まれて、世代間の不公平論を跳ね返すことができれば、それこそ、日本でも、「ネットで革命」ということかな。なんてね。
(今日の日経)
AIJ問題・信託・企業年金も調査。ハイブリッドに死角、車もガラパゴス。年金交付国債が焦点に。社説・役立つ番号制度。ドラギ総裁、火消しに手腕。米大統領選・無党派層に選択肢がない。中外・40年後のあさま山荘考。読書・若年層活かし活力・福田慎一。