経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

年金の支え手と収支

2010年08月16日 | 社会保障
 専門家以外は興味が湧かないかもしれないが、せっかく、昨日、日経が地味なニュースを大きく書いてくれたので、取り上げることにしよう。記事は「厚生年金の支え手減る、現役2.47人で高齢者1人扶養」というものだ。

 この「2.47人で1人」という数字だが、人口が静止状態、つまり各年の出生数が同じ場合、受給期間が65歳から平均寿命の83歳までの18年間、保険料を負担する現役期間が20歳から60歳までの40年間だとすると、比率は2.22になるから、「2.47」が異常に低いというものではない。昔は楽すぎたというだけである。

 問題は、支え手が採用抑制によって、減っていることである。厚生年金加入者は20万人減となった。生産年齢人口が年率0.86%ほど減少していることを踏まえれば、減ること自体に不自然さはないが、失業率の上昇で支え手が減ることは、年金にとっては人口が減るのと同じような意味がある。 

 人口そのものが減るときには、失業率を低下させ、女性を支え手に加え、所得を増やしていくことが年金財政には重要になる。これらは、将来の年金受給権を増大させることにもなるため、恩恵は一度限りではあるが、それでも貴重である。現在の年金改定は、成長率より低く抑える仕組みになっているから、効果は高い。

 年金財政については、平成21年度の厚生年金の収支が8月10日に公表になっている。簿価ベースでは、7734億円の赤字となっているが、重要なのは、4兆5283億円の積立金の取り崩し額で、これが収支の実態を示すものと言えよう。

 別途、積立金については、8兆6208億円も運用収入として計上しているが、これは積立金を時価評価したことによるものであり、ブレが大きい。評価益を除く金利収入は、20年度の積立金残高が124兆円であるから、国債の利率加重平均の1.40%を参考にすれば、1兆7400億円程度と推定できよう。この収入を勘案すれば、厚生年金の実質的な収支は、2兆7900億円の赤字まで縮まる。

 ところで、平成21年度については、基礎年金の国庫負担が2分の1まで引き上げられた関係で、2兆3660億円増加しており、もし、これがなければ、5兆1600億円の赤字だったことになる。国庫負担の引き上げが、いかに大きな政策課題だったか分かる。

 この分だけ、財政赤字は大きく、年金赤字は小さく見えているわけである。いずれにせよ、GDPの1%にも相当する年金関係での赤字は、景気を支える大きな力になったことは確かであろう。経済政策は、財政と社会保障を統合して考えなければならないことは、これ一つでも明らかである。

 ここで、平成21年財政検証の厚生年金の見通し(中位ケース)と比較すれば、保険料収入は9000億円程度のプラスを見込んでいたから、経済の不調と支え手の減少から、4500億円のマイナスというのは、出だしからつまずいた形である。むろん、たった1年、しかも経済危機の年であったから、これで不安を持つ必要はないが、景気を回復させ、支え手を増やすことが年金制度にとっても、どれほど重要かは、認識したいところだ。下手な「年金改革」より、そちらが遥かに重要である。
 
(今日の日経)
 郵政会社がEVを1000台調達。日米金利差縮小が円高圧力に。核心・世界ルーズベルト不況・土谷英夫。永続性支える経営学を・小林喜光。経済ブレーン、米グールズビー、英レッドウッド。ホンダ1ℓ60km以上照準。三井金属、希土類でCO2削減。超電導ケーブル商用網。キリン女性管理職を倍増、ポジティブアクションで離職率低下。経済教室・声明科学の知的財産戦略。
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