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アイヌ政策 先住権を認めてこそ

2017-08-18 | アイヌ民族関連
信濃毎日新聞(8月17日)
 政府が本年度、アイヌ民族の生活状況を把握するため、全国規模の調査を実施する。
 全国調査は2010年度に続き2回目。アイヌの人々の収入、大学などへの進学率、就職率は国民平均を下回るとみられている。政府は調査結果を、検討中の支援策に反映させる考えだ。
 調査の趣旨に異存はない。けれど、アイヌの人々と国民平均とに格差が生じる背景には、いまだに先住権を認めていない政府の姿勢がある。生活や教育面の水準を国民平均に引き上げることだけを目的とするなら、形を変えた同化政策にすぎない。
 明治期に政府は「北海道旧土人保護法」を制定し、アイヌ民族に同化を強いた。土地を取り上げ、アイヌ語の使用、生業の狩猟や漁業、伝統の習俗を禁じ、改名と不慣れな農業を強要した。この法律は1997年まで存続した。
 代わって施行されたアイヌ文化振興法も、アイヌの人々の要請からは程遠い内容になった。民族の権利回復を目指した人種差別の一掃、民族教育の振興、経済自立策は棚上げにされ、文化振興のみに収縮されている。
 日本も賛成し、2007年に国連で「先住民族の権利に関する宣言」が採択された。政治的自決権、文化的伝統を実践する権利、土地や資源に対する権利などを認めた宣言で「先住民族の権利の章典」と言われる。この宣言に照らしても、振興法をもって民族政策だとうたうことはできない。
 例えば、カナダでは先住民族イヌイットが直轄する準州が設けられている。米国でも、不平等な面はあるものの、連邦政府との取り決めによって、土地の占有や利用といった各部族の先住権が保障されている。
 アイヌには、こうした自治権を行使する体制が整っていない、との指摘もある。明治からの散々な国の仕打ちにもかかわらず、アイヌの人々は各地でコタン(集落)を守ってきた。それでも不十分と言うのなら、体制を再建する方策をアイヌの人々とともに探る責任が政府にはある。
 10年度の全国調査では、回答者が153世帯210人にとどまった。アイヌだと名乗れない社会的な要因があるのだろう。民族の権利が認められてこそ、アイヌの人々の誇りは回復し、固有の文化も日常生活に溶け込んで発展を遂げるに違いない。
 先住権の具体化に向けた議論の進展は、国内で民族間の共生を考える大切な契機にもなる。
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170817/KT170813ETI090002000.php
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