読売新聞2024/07/07 05:00
藤戸の作品を解説する五十嵐さん(6月28日、白老町で)
動物を彫った藤戸の作品群。スクリーンでは創作の映像も流されている(いずれも6月28日、白老町で)
アイヌの木彫り工芸を芸術の域にまで高めた彫刻家、藤戸 竹喜たけき (1934~2018年)の生誕90年を記念した特別展が、白老町にあるウポポイ(民族共生象徴空間)の中核施設・国立アイヌ民族博物館で開かれている。クマ彫り職人の父の見習いとして12歳でノミを手に木塊に向き合った藤戸の初期から晩年までの作品91点を通じ、足跡をたどれる展示となっている。
藤戸の特徴の一つとされるのは作域の広さ。見習い時代から手掛けたクマに始まり、動物だけでもオオカミ、シカ、ラッコ、エビ、カニと多彩で、アイヌのエカシ(長老)やフチ(おばあさん)ら人物像にも対象は広がる。彫り出された表情も豊かで、クマの母子が見つめ合う「親子熊」などは心を和ませる。
躍動感や生気にもあふれている。2頭のオオカミがシカを挟み撃ちにする「鹿を襲う狼」や、逆立ち状態で潜ったラッコが海底の二枚貝に手を伸ばす「ラッコ、潜る」は、動物たちの生死をかけた瞬間や日常を、生き生きと切り取っている。別々に彫ったパーツを後で組み合わせるのではなく、一本の丸太や木塊から彫り出すのも驚きだ。
2017年8月まで2年をかけた「狼と少年の物語」は同年秋、札幌芸術の森美術館などで開かれた回顧展向けに彫った19場面の連作で、絶滅したとされるエゾオオカミへの思いを込めた。両親と離ればなれになった赤子がオオカミに育てられ、成長して自らの出自を理解した後も、姉オオカミと再び山に戻る物語を巧みな技と構成で表現し、独特の作品世界にいざなう。
企画・監修した前道立近代美術館学芸部長の五十嵐聡美さんは「父から厳しく指導された藤戸さんの作品は手抜きがなく、よく見ると裏側や細部まで彫り込まれている。ぜひ、訪れて楽しんでほしい」と呼び掛けている。
8月25日まで。休館は7月16、22、29日、8月5、19日。ウポポイ入場料を含む観覧料は一般1500円(20人以上の団体1200円)、高校生800円(同640円)、中学生以下無料。9月14日~11月17日には旭川市の道立旭川美術館でも開催される。
https://www.yomiuri.co.jp/local/hokkaido/news/20240706-OYTNT50271/