菅沢由佳子 会員限定記事
北海道新聞2024年6月23日 12:02(6月23日 17:33更新)
《フクロウ祭り ヤイタンキエカシ像》(部分)2013年、鶴雅リゾート蔵、露口啓二撮影
北海道を代表するアイヌ民族の木彫家、藤戸竹喜(ふじとたけき)さん(1934~2018年)の創作活動を振り返る「生誕90年記念 藤戸竹喜の世界展」が29日、国立アイヌ民族博物館(胆振管内白老町)で開幕する。初期から晩年までの91点を通し、卓越した写実表現を堪能できる。
目玉の一つは、アイヌ民族の長老を等身大で表現した「イランカラプテ像」。JR札幌駅構内に設置されている像を今回初めて駅の外へ搬出。いつもとはひと味違う雰囲気で、威厳あるたたずまいを鑑賞できる。
熊をはじめとする森の動物、海の生き物など、精魂込めて彫り上げた仕事の全容を紹介する。8月25日まで。9月14日からは道立旭川美術館で展示する。
■天性のバランス、躍動感表現
企画監修した五十嵐聡美さん
展示会を企画監修する前道立近代美術館学芸部長の五十嵐聡美さん(60)に見どころを聞いた。(聞き手・菅沢由佳子)
藤戸竹喜さんは創作において全く手を抜かない一方で、驚くほどの短時間で仕上げる神業のような技術の持ち主でした。
基本的に一つの木から台座ごと彫り出すスタイル。丸太から彫刻を造る時、普通の人はいきなりマサカリを入れません。立派な木材をだめにするかもしれないですから。でも藤戸さんは、これから彫ろうとするイメージが木の中に立体的に見えているのでしょう。下絵もなしに、どの方向からでもピタリと彫り進めることができたのです。
力学的なバランス感覚にも注目です。例えば「ラッコ、潜る」という作品。頭を真下にして海底の貝を拾おうとするラッコの像は、貝をつかんだ小さな前脚だけで全身を支え、まるで浮いているように見えます。ぽきりと折れないぎりぎりの限界点まで彫る。まねのできない能力です。
クマの愛らしさを表現するために、自然に見せつつ実物をデフォルメしていることも特徴です。優れた写実表現が藤戸作品の魅力ですが、写真などを基にそのまま彫り出しているわけではなく、脳裏に描いたイメージに沿って創作しています。
藤戸さんは生前「自分の仕事は全部見てほしい」と話していました。裏側や細部まで丁寧に作り込んだ作品に、ぜひ目を凝らしてみてください。
■熊こそが原点
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※「イランカラプテ」の「プ」、「ウレシパクラブのシ」、「アイヌモシリ」の「リ」はいずれも小さい字。
■白老展
◇会期 6月29日~8月25日。休館は7月1、16、22、29日、8月5、19日◇会場 国立アイヌ民族博物館(胆振管内白老町若草町2の3、ウポポイ内)◇観覧料(ウポポイ入場料含む、当日券のみ) 一般1500円(1200円)、高校生800円(640円)、中学生以下無料。かっこ内は20人以上の団体料金◇主催 国立アイヌ民族博物館、北海道新聞社
■旭川展
◇会期 9月14日~11月17日。休館は9月17、24、30日、10月7、15、21、28日、11月11日◇会場 道立旭川美術館(旭川市常磐公園内)◇観覧料 大人1300円(1100円)、高大生800円(600円)、中学生500円(400円)、小学生以下無料。かっこ内は前売り券と10人以上の団体料金◇主催 道立旭川美術館、北海道新聞社、同展実行委員会
白老展、旭川展ともに詳細はホームページへ。