今日は「染めメノウ」です。
このひとつ前のブログで石の世界には怪しいものが多々ある、と書きました。染成オーケン石はその典型のようなものです。天然のままの石である方が良いのに、人の手が加わる事によって逆にその価値を落としていると思います。
ただ、人の価値観には多様性があり、そのようなものを好む価値観やそのようなもので儲けようという人の欲望も存在しているようです。そのような人の価値観は本来、石の方には関係ありません。石には意志等なく、ただ存在しているだけです。私が染められた石の事をかわいそうだと思う事も石の方には関係ない事なのかも知れません。
染められた石、というと「染めメノウ」の事を忘れてはいけません。
これらはブラジル産の染めメノウです。赤いものは染めているというよりも、加熱され鉄分が酸化されて赤く変色しているようです。青や緑のものは染色です。
このような染色は装飾品や工芸品の分野では古くから行われています。それは天然色のメノウよりも鮮やかに人に好まれるように加工されたものなのです。これらのメノウの印象はそれほど違和感がありません。むしろ染められる事によって美しく変身していると思います。
そういえば、宝石の世界ではエンハンスメント処理は普通に行われているようです。それは普遍的な人の価値観で、より美しくしようという価値観からきています。
人間世界では古代ギリシアの哲学者プロタゴラスの「人間は万物の尺度である」という言葉が生きています。
石の世界では、石の方には関係なくとも、人の方で様々な価値観から様々な加工処理が行われているいるのが現実です。
今日は「染成オーケン石」です。
オーケン石は丸くて兎のシッポのような質感が好まれる人気の高い石です。既に何個かのオーケン石は売れてしまいましたし、店には今でも幾つか残っております。
これはインド産のオーケン石です。インドのデカン高原から産出する玄武岩の晶洞の中に入っているものが有名です。
私はこのオーケン石の色は白いものであると思っていました。
ところが、黄色いオーケン石の写真を見てしまいました。その写真は「教授を魅了した大地の結晶 北川隆司 鉱物コレクション200選」(松原 聰 監修 東海大学出版会)に載っておりました。しかも鉱物の説明の文章に「青や黄を帯びることもある」とありました。
価値観が揺るぎました。私はこれまでにミネラルショー等で色の付いたオーケン石を見た事がありましたが、それを見た瞬間にそれは染色されたものだろう、と思っていました。染められたオーケン石は縁日で売られていた染められたヒヨコのようで、かわいそうだとも思っていました。
それは本物なのか?写真だけでははっきりしません。真偽が定かではないまま、少し時間が過ぎてしまいました。
そして、思わぬところではっきりしました。
今、手もとに「鉱物愛好者(MINERAL LOVER)2009.4」という中国語の雑誌があります。その雑誌の中に黄色と青色のオーケン石の写真が載っておりました。一瞬、そのようなものが存在するのか!とも思ってしまいました。
私は中国語は分かりませんが、中国語の漢字を見ていると、何となくその意味が分かってきます。そのオーケン石のキャプションには「染成」という文字が付いていました。しかもその記事の小見出しは「改色」となっております。そして、その記事の大見出しには「要注意」という漢字が入っています。
それで、はっきりしました。それは「染成オーケン石」なのです。それはやはり染められたものなのです。そういえば、黄色のオーケン石の産地は中国となっておりました。
皮肉な事です。日本語の書物で揺らいだ疑念は、それが中国で染められたもので、その事実を中国語の雑誌で知ってしまいました。
石の世界には怪しいものが多々あります。気をつけましょう!